秘密の篭(R-18)

□Change The World
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〜Change The World〜



聖域から少し離れた人気のない林の奥、スコールは荒い息を吐きながら身体を弛緩させ、ゆっくりとヴァンの身体の上に倒れこんだ。
ヴァンは、そんなスコールの汗ばんだ背中を優しく撫でるように二、三度叩くと、薄く笑いながら囁いた。
「どうした?何かあったのか?今日は随分と激しかったけど。」
ヴァンのその言葉に、スコールは嫌そうに顔をしかめると、返事をせずに身体を起こした。
「あ・・・。」
スコールが胎内から抜けていく感覚に、ヴァンは小さく震えて切ない声を漏らした。スコールはヴァンをちらりと見たが、やはり何も言わずに脱ぎ捨てた服に手を伸ばした。
ヴァンは甘い余韻が残る身体で横たわったまま、スコールの後ろ姿を淋しそうに見つめた。
こうして身体を重ね合わせるのは、何度目になるだろうか?
何度も抱き合い、その最中にはどれほど激しくお互いを求め合ったとしても、ひとたび身体が離れてしまえば、スコールは前以上の冷たく固い顔つきになった。
それは、嫌悪の表情と言っても良い程だ。
(嫌なら、もう止めればいいのに―――。)
何度もヴァンはそう思った。だが、それを言葉にすることはなく、何日か経つと二人はどちらともなく誘い合わせて、また抱き合った。
(なんで、スコールとこんな風になったんだろうか。)
ヴァンは、硬質なスコールの後ろ姿を眺めながら、二人が初めて抱き合った日のことを思い浮かべた。



それは、今から二週間前のこと。
その日ヴァンは、スコール、フリオニール、オニオンナイトの四人でパーティを組んでいた。ヴァンはスコールと同じパーティになるのは初めてだったが、スコールに対してあまり良い印象はなかった。
確か同じ歳だとラグナから聞いていたが、その時に「随分と正反対な同い歳だな」と笑われた。そのため、妙なライバル心めいたものがヴァンの中にあった。
だが、いざ戦ってみるとスコールのアシストはとても動きやすかった。ヴァンの能力を最大限引き出すようなアシストで、ヴァンはたちまちスコールに好感を抱いた。
「スコールのアシスト、すごく動きやすいよ!」
無邪気な笑顔を向けるヴァンに、スコールは迷惑そうに顔を背けた。
「当たり前の仕事をしただけだ。」
その素っ気ない返事にヴァンが頬を膨らますと、フリオニールが笑いながら耳打ちした。
「照れているんだ。気を悪くするな。」
そう言われてみれば、心無しかスコールの顔が赤い。ヴァンは、こっそりフリオニールと笑みを交わすと、先を行くスコールの後ろ姿を追いかけた。
そして、四人は順調にいくつかのひずみを解放していった。

(やっぱりスコールのアシストが一番動きやすい。)

ヴァンは戦いを重ねる中で、そう実感した。感覚が合うというのだろうか。今まで、まともに話したこともないのに、不思議と呼吸が合った。
ヴァンは移動の間、無口なスコールの横顔をジッと見つめた。すると、スコールの方もちらりとヴァンを見た。
その照れたようなはにかんだ瞳に、ヴァンは思わず吹き出した。
「なんだ?」
たちまちスコールは不機嫌そうに顔をしかめた。だが、それが照れ隠しだとヴァンにはすぐに分かった。
「いや、別に何でもないよ。」
楽しげに笑って、ヴァンは首を振った。
「さあ、次のひずみに行こうぜ。」
怪訝な顔のスコールを促して、ヴァンは元気良く前を歩いた。



順調にひずみを解放していた四人だったが、その戦闘の最中、年若いオニオンナイトが足を負傷してしまった。
「大丈夫、僕まだ戦えるから!」
強がるオニオンナイトをなだめて、フリオニールが付きそって先に聖域へと帰還して行った。
「オレ達はどうする?」
ヴァンは、小さくなるフリオニールとオニオンの姿を見送りながら、スコールに尋ねた。
尋ねながらヴァンは、内心(我ながらバカな質問だ)と感じていた。帰るつもりなら、フリオニール達と一緒に帰ればよかったのだ。そうしなかったのだから、スコールはまだ戦いを続けるつもりなのだろう。だが二人だけで残されて、ヴァンは少し不安になったのだ。
スコールは、オレと二人きりで嫌じゃないのか――と。
いつにない気弱なヴァンの問いかけだったが、スコールはヴァンを見ないままでボソリと言った。
「後一つ、ひずみを解放したら帰ろう。」
そのスコールの答えに、ヴァンはホッとした。
「うん、分かった。」
ヴァンは嬉しそうに笑いながら、明るく返事をした。そんなヴァンを、スコールは少し眩しそうに見た。



こうして二人きりで入ったひずみだったが、そこにいたイミテーションは、ストレンジタイプ揃いだった。思いがけず苦戦を強いられた二人は、何とかひずみを解放できたものの、疲れ切ってボロボロの状態だった。
二人はお互いに肩を貸し合いながら、ヨロヨロとひずみから脱出した。傷だらけの身体を寄せ合い、重い足どりで歩きながら、ヴァンは秘かに落ち着かない心を持て余した。
頬にかかる微かなスコールの息に、心が波立った。
「お前、身体細いんだな。」
ぽつりと、スコールが言った。ヴァンは触れ合う肩先のスコールを見た。長い睫毛に縁取られた褐色の瞳が、ヴァンを見ていた。
「スコールは、意外とガッシリしてるな。」
その瞳を見つめ返しながらヴァンが答えると、スコールは珍しく小さく笑った。
「”意外”は余計だ。本当にお前は一言多いな。」
滅多に見ることのないスコールの笑顔に、ヴァンは胸がじんと熱くなった。
「そっか。ゴメン。」
胸の高鳴りを押さえて、ヴァンは小声で謝った。スコールはそれに黙って頷くと、ヴァンの肩を担ぎなおした。
そして、二人はそのままお互いの体温を感じながら、喉の乾きを潤すために近くの湖まで支え合い歩いた。


ほどなくして、ヴァンとスコールは湖に辿り着いた。
二人は、よろよろと湖のほとりに座り込んだ。ヴァンは湖のふちに手をかけると、水面に直接顔をざぶりと付けて水を飲んだ。
「あー、カッコ悪りぃ。オレ達ボロボロだな。」
ヴァンはごくごくと水を飲むと、濡れた前髪をかきあげながら言った。
「仕方ない。ストレンジタイプが揃ってたんだ。」
スコールはその隣で几帳面に手を洗いながら、ボソリと言った。その手に切り傷があるのを見つけて、ヴァンは思わずスコールの手首を掴んだ。
「スコール、怪我してるじゃないか!さっき、オレをかばった時のだろ。」
「このくらい何でもない。離せ。」
スコールは、掴まれた手を慌てたように引っ込めようとしたが、ヴァンは離さなかった。
今から考えても、どうして自分があんなことをしたのかヴァンにも分からない。ただ自然と身体が動いた。ヴァンは、薄く血が滲むスコールの手の傷に、自分の唇を押し当てた。
「なっ・・・!」
スコールが驚いて息を飲んだ。
だが、ヴァンは構わず傷口に唇を這わせた。そして優しく撫でるように、舌で滲む血を舐め取った。口の中に広がる血の味が、なぜかヴァンには甘美なものに感じた。
ヴァンが濡れた音を奏でて唇を離すと、スコールの口から押し殺したような溜め息が漏れた。
「ヴァン・・・。」
スコールが震える声でヴァンを呼び、ヴァンは顔を上げた。
見上げたスコールの瞳の奥には、熱く燃える炎が宿っていた。その炎を映したヴァンの瞳が、一瞬で同じ様に燃え上がった。
刹那、スコールはぐいっとヴァンを引き寄せると、乱暴に唇を重ねた。


そこからは、二人とも無我夢中だった。
戦闘で高ぶった身体は簡単に理性を焼き切り、二人は競い合うようにお互いの服を脱がした。その合間にも激しいキスを交わして、縺れるように草むらに倒れこんだ。
熱い息が合わさり、触れ合う素肌の温かさに二人は震えた。そして奔放な欲望の渦に、あっという間に飲み混まれていった。

  


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