秘密の篭(R-18)

□Love in the Dark
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*ご注意*

 ヴァンがバルフレア以外の人と絡むのがお嫌な方は読まないでください!


 ■ Love in the Dark(1) ■



ひんやりとした冷たい感覚を頬に感じて、ヴァンはゆっくりと意識を浮上させた。
頭はぼんやりと霞がかかったように重く、身体も頭と同様に鉛のように重い。
そんな自分の身体に違和感を感じながらヴァンは目を開こうとしたが、なぜか瞼も重い。まるで接着剤でくっつけたかのような瞼を、ヴァンは苦労して無理やりこじ開けた。
そうしてようやく開いた目に入ってきたのは、薄汚れた低い天井。
きょときょとと目だけを動かして辺りを探ってみたが、まるで見覚えがない部屋だった。


ここはどこだろうか?
そもそも、なぜ自分はこんな所で眠っているのだろうか?


疑問ばかり浮かんでくるのに、頭は一向に重くて働かない。視界を回そうとしても、ヴァンは首すら自由に動かすことができなかった。
ヴァンは次第に焦りを覚える心を抑えて、ゆっくりと記憶の糸を辿ろうとした。
その時、先ほど感じた冷たい感触をまた頬に感じた。
ギギギと錆付いた音を立てそうな首を苦労して回すと、ヴァンはその冷たい感触を与える物を見た。


それは青白い指先。
やや節の高い指は男のもので、ヴァンのふっくらとした頬を滑るように撫でた。
「誰?」と問おうとしてヴァンは、ひどい喉の渇きを覚えた。
声にならないひゅっという音がヴァンの喉からもれ、その途端冷たい指先はスルリと頬から離れた。
ヴァンは離れた指先を追おうとしたが、相変わらず身体は重く自由がきかない。限られた視界の中でヴァンが少しでも情報を得ようとした時、ぬっと見知った顔がヴァンを覗き込んだ。
「ジュ・・・!」
張り付いた喉からは、やはりうまく声は出なかった。
けほけほと咳き込むヴァンに、その男―――ジュールは声を立てずに笑った。
その顔を驚きの目で見るヴァンの脳裏に、霧が晴れたように今までのことが鮮やかに甦った。


今日の昼下がり、ヴァン達はソーヘン地下宮殿を抜けてアルケイデイス旧市街地にたどり着いた。
そして、バルフレアの知己だという情報屋ジュールの助けで帝都に潜入できたのだが、帝都に入るや否やバルフレアが離脱した。
途方にくれるヴァン達の前に、バルフレアの伝言を持ってジュールが再び現れた。
バルフレアと落ち合うのは翌日になると言われ、ジュールの紹介で一行は宿を取ったのだ。
そして、早めの夕食を取って部屋に戻り、それから・・・。


―――それから?


鮮やかにフラッシュバックしていた記憶が、そこで途切れていることにヴァンは気付いた。
確か宿は一人部屋しか空いてなく、皆はバラバラに分かれて部屋に入った。
部屋に入った途端、それまでの疲れがどっと出て・・・。
それから?
ヴァンは背中にひやりと汗が流れるのを感じた。
それから、ヴァンはシャワーも浴びずにベッドへ歩み寄った。
そして、ベッド脇のミネラルウォーターを一気に飲み干して横になった・・・。



ヴァンが記憶を辿っている内に、ジュールは猫のように静かにベッド脇へと近付いていた。
そしてギシリと音をたてて、ジュールはベッドに腰掛けた。
その瞬間、ヴァンは言いようのない恐怖を感じた。
朦朧としていた意識は今でははっきりと覚醒していたが、身体の方は依然として重たいままだ。腕一つ満足に動かせない状態で、ジュールという得体の知れない男と知らない部屋で二人きりなのだ。
それは、常に楽天的だと言われるヴァンにしても不気味なことだった。


空色の瞳を大きく見開いて、じっと見詰めるヴァンの顔をジュールは静かに見下ろした。
ジュールはそっとヴァンに顔を近付けると、眠そうな目を更に細めて優しく囁いた。
「可愛いおバカさん、後三時間は動けないよ。」
ぐっとヴァンの顔が歪んだ。
何か言おうと唇が開いたが、舌がもつれて言葉にはならなかった。
クスクスとジュールは楽しげに笑うと、ヴァンの頬を再び冷たい指で撫でた。
そのひやりとした感触に、ヴァンは心の奥底まで冷えていく気がした。
「いいかい、少年。ここ帝都ではね、誰かの知り合いだからって信じちゃダメなんだよ。その誰かが自分のよく知ってる人だとしてもね。」
つつと、ジュールは指先を頬から喉元へと滑らしていく。
「自分が知っていること、それが肝心。自分が知らない人に付いて行ってはダメだし、危険だ。」
最後の言葉を言いながら、ジュールはヴァンのベストの留め金を外した。
ヴァンの身体が総毛だつ。
その様子に、ジュールは楽しげに喉を鳴らした。



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