秘密の篭(R-18)

□禁断の果実
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〜〜 禁断の果実 〜〜



レックスの仕事は、いつも六時くらいに終わる。本当は、もう少し働いて稼ぎたいところだが、お腹を空かせて待ってるヴァンを思うとできなかった。
急いでバザーで買い物を済ませて帰ると、いつも空腹で膨れっ面のヴァンが出迎える。
「お帰り、兄さん。お腹空いた〜。」
このヴァンの出迎えの言葉が、レックスは大好きだった。
ヴァンが自分を待っていた、必要としている―――それを強く実感できるからだ。
だが、それを友達のザルバッグに言うと、変な顔をされた。
「俺ならイヤだな。ラムザやパンネロがそんなこと言って出迎えたら、ぶん殴るね。」
そう言ってザルバッグは、レックスの顔をしげしげと見て溜め息をついた。
「お前、ヴァンのこと可愛がりすぎだぞ。」
「だって、本当に可愛いんだから仕方ないよ。」
レックスはそう言って笑った。


だが、今日はヴァンの出迎えがいつもとは違っていた。
レックスがドアを開けて家に入っても、傍に寄ってもこない。
確か今日は、ミゲロさんの店の手伝いに行った筈だった。レックスは、ヴァンが疲れて機嫌が悪いのだろうかと、眉をひそめた。
「どうした?ヴァン。元気ないな。」
「なんでもないよ。」
口ではそう言いながらも、心配そうに覗き込むレックスの視線を、無意識にヴァンは避けた。そのことに軽いショックを受けながら、レックスはヴァンに何かあったのだと確信した。
「そうか。なら、すぐに晩御飯の用意するね。」
レックスは優しい笑みを弟に投げかけながら、台所へと向かった。そんな兄にヴァンは気弱な笑みを返した。
(まあ、いい。)
と、レックスは思った。素直なヴァンは嘘が苦手だ。無理に聞き出さなくとも、今に耐え切れずに話すに違いない。
ヴァンのことなら、わからないことなど無いのだと、レックスは自負していた。


多少のぎこちなさを残したまま、二人は夕食を取った。
レックスはいつものように、今日の仕事のことや最近の明るい話題、アーシェ王女とラスラ王子の婚約のことなど話した。
「で、ヴァンは今日どうだった?ミゲロさんの手伝いしたんだろう?」
さりげなく話を切り出したレックスに、目に見えてヴァンがギクリとした。
「あ、・・・ああ。うん、ちゃんと手伝いしたよ。」
ぎこちなく返事をする弟に、レックスは更に聞いた。
「そうか。どんな仕事だったんだい?」
「え・・・、どんなって。・・・荷物を砂海亭に運ぶ仕事だよ。」
「じゃあ、重かっただろう?大変だったな。」
「・・・うん。でも、トマジも手伝ってくれたから・・・。」
「そうか。」
どんどん歯切れが悪くなるヴァンに、レックスは首をかしげた。
やはり、ヴァンの変調は今日の昼間の何かが関係している。だが、それが何なのか検討がつかない。まさか、トマジがヴァンにちょっかいを出したりしないだろうし。
レックスがそんな事を考えていると、ヴァンが立ち上がった。
「もう、お腹いっぱい。ごちそう様。」
そそくさと自分の食器を台所に運んで行く。
いつになく頑ななヴァンの様子に、レックスは苦笑した。ヴァンに続いて食器を台所に運ぶと、皿を洗っているヴァンを後ろから抱きしめた。
ガチャン!
ヴァンの手の中で、食器が悲鳴のようなイヤな音を立てた。
レックスはかまわず抱きしめる腕の力を強め、ヴァンの頬に唇を寄せた。
「やめて、兄さん・・・。食器が洗え、ない・・・。」
弱々しいヴァンの声がしたが、レックスは頬に、こめかみに、目尻にと次々と唇を押し当てた。そして、最後に耳殻を優しく甘噛みしながら、そっと囁いた。
「ヴァンがいけないんだよ。ちゃんと話してくれないから。」
耳から首筋へと、わざと音をたてて舌を這わせる。
ヴァンがそうされるのに弱いと知っていて。

ヴァンはたまらず身を捩った。兄の腕から逃れようとして、レックスの胸に手をつき、下から睨みつける。
だが、その瞳は兄の悪戯な愛撫に潤んで、頬は薄く桃色に上気していた。
あまりにも無防備なその色香に、レックスはゴクリとのどを鳴らした。そっとヴァンの顎を取ると、唇を寄せる。
その瞬間、ヴァンが弾かれたように手で自分の口を押さえて叫んだ。
「だめだよ、兄さん!ここは恋人同士がするキスだよ。兄弟でしちゃあ・・・ダメだ・・・。」


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