秘密の篭(R-18)

□青すぎる空
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〜〜青すぎる空〜〜
        バラ色の人生 番外編


「うん・・・。」
その日、ヴァンは強いのどの渇きと身体の痛みで、目を覚ました。
ダウンタウンのヴァンの部屋には、日がささない。だから、日の光りで今の時間を知ることは出来なかった。ヴァンは、起き抜けのぼんやりした頭で、もう夜なのだろうかと思い身体を起こした。
身体がまるで鉛のように重い。
昨晩は、二人組の帝国兵を同時に相手したのだ。一人ずつだと、てんで意気地のない奴らだったから舐めてかかっていたら、二人だと俄然、野獣のように攻撃的になった。
散々鳴かされたのどと、朝まで無体を強いられた身体が痛い。
ヴァンはヨロヨロとベッドから這い出ると、小さな台所で水を飲んだ。

時計の掛かった壁に目をやると、まだ昼の三時だった。ならば、もう一眠りしたら夜には仕事に行けると、ヴァンは思った。

「空賊になりたい」
それは、ヴァンの子供の頃からの夢だった。
今は夢というより、この生活から抜け出す唯一の手段のように思えた。だが、空賊になるためには、自分の艇がいる。敗戦国の戦争孤児の少年が、手っ取り早くお金を貯めるには、自らの身体を売るしかなかった。それでも、夢の実現のためなら、こんなこと雑作もないことだと自分に言い聞かせて、ヴァンは毎日を送っていた。
再び眠り、次に目が覚めた時には、身体の痛みはほとんど消えていた。
ヴァンは、ベッドから起き出すとシャワーを浴び、すっかり夜の顔になって街へと出かけて行った。


ヴァンはいつもラバナスタ一大きな酒場、砂海亭で客引きをした。
昔なじみのマスターは良い顔はしなかったが、黙認してくれた。旧友の息子の現状に、溜め息をついたところで彼を救うことは出来ないからだ。
ヴァンはいつものように、砂海亭の重い扉を押して中に入って行った。
今日も砂海亭は混雑していた。
見知らぬ一団が店の奥に陣取り、にぎやかに騒いでいる。見かけぬ顔にヴァンが視線を向けると、その中のリーダーらしき男と目が合った。
広く禿げ上がった頭をしているのに、白く豊かな髭を蓄えている。浅黒い顔は精悍で、眼光の鋭さはただの旅人ではないと推測された。
身体に絡み付いてくる粘性のある男の視線を、曖昧な笑顔で振り切って、ヴァンは帝国兵の溜まり場の二階席へと階段をのぼった。
途中で会った店員に飲み物を注文し、さりげなく階段の手すりにもたれる。そして、そっと帝国兵士の顔ぶれを盗み見た。
(今日はアイツだな・・・。)
ヴァンはその中に、見覚えのある将校の顔を見つけて思った。威張りくさったイヤな奴だが、金払いが良いのと、あっちが早いのが取り柄だった。
(ちょっと先っぽ舐めただけでイクんだもんな・・・。)
前に相手した時のことを思い出して、ヴァンは肩をすくめた。
その肩を後ろから抱く手があった。ゆっくりと振り返ると、やはりあの将校だった。
ヴァンは蕩けるような笑顔を浮かべた。
「ああ、あんたか・・・。いつ砂漠の見回りから帰ってきたの?」
「今日だ。」
将校は、まるでヴァンを我が物のように、馴れ馴れしく肩を抱き寄せる。内心、舌打ちしながらも、ヴァンは男の肩に甘えるように頭を乗せた。
「じゃあ、今夜はゆっくり出来るんだろう?」
すくい上げる様に見上げれば、男ののどがゴクリと鳴った。


その時だった。
帝国将校の肩に、後ろからたくましい手がかかった。
「悪いな、旦那。そいつは俺がもらった。諦めてくれ。」
さっきの見慣れない白い髭の男だった。みるみる帝国将校の顔が怒りで朱に染まる。
「貴様、誰だ?!コイツは私が先に買ったんだ!怪我しないうちに引っ込んでろ!」
だが、白い髭の男は澄ました顔で言った。
「怪我するのは、そっちだぜ?」
言い終わるやいなや男は帝国将校を殴り飛ばした。
一気に酒場が騒然となる。
上司を殴られて、他の帝国兵たちが一斉に男に殴りかかってきた。すると、いつの間にか二階に上がってきていた男の仲間が、次々に兵士たちを殴り倒した。
「帝国兵も大した事ねえなぁ!」
白い髭の男は、カラカラと豪快に笑うと、呆気に取られたヴァンを肩に担いで砂海亭を後にした。


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