秘密の篭(R-18)

□バラ色の人生
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〜 バラ色の人生 〜




 
父親の代理で出席した退屈な舞踏会。
交わされるお世辞と愛想笑いに、ファムランは辟易していた。
しかし、帝都アルケイディスきっての名門ブナンザ家の次期当主であれば、社交界への顔出しはこなさなければならない大事な仕事のひとつであった。
後一時間くらい我慢すれば、残した仕事があると失礼しても非礼にはあたるまい―――と心の中で算段する。
一通り、主だった要人には挨拶が済んだだろうかと広間を見渡した時、ある少年の姿を見つけてファムランはドキリとした。


その少年に会うのは、これが二度目だった。
まばゆいプラチナ・ブロンドの髪に蒼い双眸。
少年というより、美少女といった方が似合う華奢な身体。
その細身な身体に、仕立ての良い贅沢な衣装を纏っていた。
前に見かけたのも、政府要人の園遊舞踏会の席だった。社交界デビューしたてのどこかの貴族の子息だろうと思っていた。
しかし、その細腰に手を回され、気だるく年嵩の連れの男を見上げる様は、どう見ても娼婦のそれだった。
ファムランは、少年の連れに見覚えがあった。
確か帝都でも有数の大金持ちの武器商人、新民――ディクト。
貴族ではないが、金にものをいわせてのし上がってきた手合い。この都には珍しくない話だ。

「やあ、ファムラン。君も来ていたのかい?」
ぼんやりとそんな事を考えていると、アカデミー時代のかつての同級生に声をかけられた。
「よお、オシロ。久しぶりだな。」
しばらく世間話をしているとオシロの方から、あの少年について話をふってきた。
「あそこに新民のディクトが連れてる少年がいるだろう?」
わざと潜めた声で言うのが、何か醜聞めいた響きをまとう。
「一応、奴の芸術的庇護を受けた歌手らしいがな。実は・・・あれは娼夫らしいぜ。」
オシロの言葉に「やはり」とファムランは思った。
だが、その後に続けられた少年の境遇のついての説明は、彼の予想外なものだった。
「この間、ジャッジによる大掛かりな空賊狩りがあっただろう?その時に捕縛された空賊の中に、人攫いをしている連中がいたらしいんだ。」
黙って話しを聞く旧友に気を良くして、オシロは得意そうに語った。
「そいつらは、各地から見た目の良い少年少女を攫っては、その手の趣味の金持ちに売りつけていたそうだ。
当然、ジャッジは保護した子供たちを親元に帰してやった。だが、あの少年だけは親兄弟もいない天涯孤独な身の上だったらしい。それに・・・、」
オシロが更に声を潜めて言った。
「もう、二年もの間、そういう目的で連中に飼われていたらしいぜ。」


実に胸の悪くなる話だが、殊更珍しい話ではなかった。
その人攫い達の上客は、この帝都の金持ちや貴族連中だったのだろう。稚児や小姓などと呼ばれる美少年の存在が、当たり前の世界なのだから。
だからこそ、ジャッジはやっきになって空賊狩りをしたに違いない。
その空賊にしても、売るついでに自分達も楽しみたかったのだろう。
ただ、二年は少し長いように思うが。余程、少年の具合が良かったのか・・・などと、ファムランは上品で端正な顔に似合わず、そんな下世話なことを考えた。
「でさ、買えるらしいぜ。あの子・・・。」
「え?」
咄嗟に言われた意味が解らず、聞き返した。
すると、オシロは忍び笑いをしながら繰り返した。
「だから、あの少年は娼夫なんだって。金を出せば相手するらしいぜ。」
「なんでだよ?ディクトがパトロンなんだろう。なんでまだ身体を売る必要があるんだ?」
「さあな?知りたかったら買って聞けばいいんじゃないの?」
オシロは笑って言った。明らかに冗談とわかる軽口だった。
だが、ファムランの胸にその言葉は、ゆっくりと影を落としていった。


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