二の篭(バルヴァン文)

□翼のない小鳥
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静かな台所に、出しっぱなしの水音だけが響いた。
ヴァンは俯いたまま、唇を噛み締めてバルフレアの返事を待った。沈黙が耐え切れないほど重い。ヴァンが堪えきれずにスンと鼻をすすった時、バルフレアが手を伸ばして水道の水を止めた。
「バーカ。やっと素直になったか、このくそガキ。」
バルフレアはクスリと笑って、ヴァンの身体を後から抱き締めた。ヴァンの肩の上に顎を乗せると、そっと赤くなった耳を甘噛みする。ビクリとヴァンの身体が震えた。
「最初っから、連れて行ってやるつもりだったんだぜ。ちゃんと。」
「本当っ?!」
弾かれたようにヴァンがバルフレアの腕の中で飛び上がり、バルフレアの方へ振り返った。
「ああ、本当だ。お前が、ミゲロさんの手伝いの方が良いってんじゃなきゃな。」
ニヤリといつもの皮肉な笑みを浮かべたバルフレアだったが、その目は優しく笑っていた。
「うん、行く!ありがとう、バルフレア。」
うれしさの余り、ヴァンはバルフレアにぎゅっと抱きついた。そして、恥ずかしげにバルフレアの頬にちゅっとキスをした。
そんな可愛らしいことをされては、昨夜のつまらないケンカのせいでお預けを食った男が我慢できるわけがなく、バルフレアはヴァンの顎をとらえて唇を合わせた。
「ん、バル・・・。」
ヴァンにしても大好きな男にされるキスがうれしくないわけがなく、そっとバルフレアの首に腕を回した。そしてキスは次第に深くなり、朝から若い二人の身体の熱は簡単に上がっていった。
その時―――。
「こほん。」
二階からわざとらしい咳払いがして、ヒールの音を響かせながらフランが下りて来た。慌てて身体を離した二人は、照れくさそうに顔を見合わせて笑った。
「さっさと用意しないとな。フランに置いていかれちまう。」
バルフレアが悪戯っぽく囁いて、二人は急いで出掛ける準備をした。



ビュエルバでの一日は、ヴァンにとって最高にエキサイティングな日になった。
豪奢な建物で開かれたオークションは、大勢の空賊や貴族、大金持ちのコレクター達が押しかけて大盛況だった。
競りにかけられる品は、小さな部品から飛空艇まで、それは多彩なラインナップだった。オークションは二部構成になっており、前半は小さな品が競売にかけられるため、ホールではなく三つの控えの間を使っての競りだった。
だが、年に一度のこのオークションには珍しい品が数多く出品されるため、白熱した競りとなった。そこでバルフレアは、首尾よくお目当てのパーツを希望の額内で競り落とした。
飛空艇やエアーバイクなどの大物は、夕方からの後半に出品されるようになっており、それは大ホールで行われる予定だった。
「本当にすごいよな。」
ヴァンは休憩に入ったラウンジで、熱っぽくバルフレアとフランに話しかけた。
興奮で顔は上気し、瞳はキラキラと輝いている。ヴァンは注文した飲み物を一気に飲み干すと、グラスの氷をストローでつつきながら周りをこっそりと見渡した。
「どんどん人が増えてくる。大丈夫かな?早くホールに行かないと、後半の競りが見れないんじゃないか?」
そんなヴァンの心配を、バルフレアは笑いとばした。
「大丈夫、飛空艇が入る程の大ホールなんだ。それに、ちゃんと席はとってある。」
バルフレアはヴァンのために、有料の指定席を確保していた。
VIP専用の桟敷席までは手が回らなかったが、出品された品が間近で見れるなかなか良い席だった。
「良かった〜。」
素直に顔をほころばすヴァンに、フランも笑みを零した。
「さ、今のうちに何か食べておくといいわ。きっと、後半の競りは長引くから。」
「うん!」
元気良く返事をしてメニューを開くヴァンを、バルフレアとフランは楽しげな目で見守った。


そんな三人を、少し離れた席から興味深そうに見詰める人物がいた。
その人物は長い黒髪を揺らして席を立つと、ゆっくりとラウンジを出て行った。



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