二の篭(バルヴァン文)

□誰かを想う&LOVEシリーズ
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 ** Love Fever **



モスフォーラ山岳の頂き。
『蒼き天辺』にシュトラールは停泊していた。
夕暮れにはまだ時間がある昼下がりの柔らかな陽射しを浴びて、その白銀の機体はキラキラと美しく輝いていた。それはまるで、翼を休める白い鳳のようであった。
そのシュトラールの中、ヴァンとバルフレアは二人きりでいた。
ノノ達は、モスフォーラにいた大工の親方モーグリ達と息投合し、キャンプ場に繰り出して昼間から宴会を開いていた。そしてフランは、最初から今回のフライトには参加していなかった。
静かなシュトラールの仮眠室の中で、ヴァンとバルフレアはお互いを黙って見つめ合っていた。


「バルフレア・・・。」
ヴァンの切なげな声が、狭い部屋に響いた。
そっと自分に向かって伸ばされたヴァンの手を、バルフレアは黙って強く握りしめた。
「ごめん、オレ・・・。」
ベッドに横たわるヴァンの瞳から、一滴の涙がこぼれ落ちた。頬は赤く上気し、繰り返す息は荒く熱い。
「いいから、もう気にすんな。今は休め。」
バルフレアは、握ったヴァンの手をあやすように軽く振って、優しく言った。
その優しい声音に、ヴァンの瞳から新たな涙がこぼれ落ちる。
「ほんと、ごめん。だけど、オレ初めてだったから・・・。」
「ああ。俺も少しハメを外し過ぎたかもな。」
バルフレアは、握ったヴァンの手に小さくキスした。
その甘い仕草に、ヴァンは涙に濡れた頬を更に赤く染めた。スンと小さく鼻をすすって、ぽつりと呟く。
「ほんとに、あんな気持ちイイの・・・初めてだったんだ。」
そのヴァンの言葉に、バルフレアは少し照れた笑いを浮かべた。
「そうか。それはよかった。」
すると、ヴァンは急に怒ったように唇を尖らせた。
「だけどズルいよ、バルフレア。あんな気持ちイイこと、あんたは今まで何回も・・・。」
ズルい、ズルいと今度は怒りの涙を浮かべながら拗ねるヴァンに、バルフレアは苦笑した。
「仕方ないだろ。過去は消せない。」
気障な仕草で肩をすくめると、バルフレアはヴァンの手を撫でた。
ヴァンはその手をぎゅっと握り返すと、潤んだ瞳をバルフレアに向けた。
「な、バルフレア。オレ、もう一回したい・・・。」
ヴァンの瞳は深い蒼に染まって、吐き出す息は熱く湿っていた。握り締めた手は汗ばみ、震えている。
「お願い。もう一回、したい・・・よ。」
「ヴァン・・・。」
バルフレアは、くっと喉を鳴らすとゆっくりとヴァンの上に覆いかぶさっていった。
そして―――。






バルフレアは、ヴァンの額に手を当てると顔を顰めた。
「バーカ!お前、また熱が上がってんじゃねーか!ダメだ。」
途端にヴァンは、口を尖らす。
「えー、大丈夫だって!オレまた操縦したいーー!」
「アホ!ちょっと操縦したくらいで、興奮して熱出してぶっ倒れるヤツに、シュトラール任せられるか!」
「あれは、操縦があんまり気持ちイイからテンション上がりすぎて・・・。」
「たく、お子様!」
「なんだよー!操縦させろよ、ケチ空賊!」
「うるさい、静かに寝てろ。」
「操縦させてくれたらな。」
「アホ!」
シュトラールをカスタマイズした後のテスト飛行。
外せない用事で参加できないフランに代わり、渋るバルフレアに頼み込んで、ヴァンはシュトラールに乗り込んだ。
絶対邪魔しない約束をバルフレアとしたため、ヴァンは「待て」を命令された犬のごとく、ひたすら黙って大人しく副操縦席にちょこんと座っていた。あらかたのテスト飛行が終わり、問題ないと分かった時も、ヴァンは嬉しそうにニコニコするだけで余計なおしゃべりはしなかった。普段のヴァンからは、まず考えられない大人しさだった。
そうなると、バルフレアはヴァンがいじらしく思えた。
お目付け役の相棒もいないことだし、少しご褒美に――と、ヴァンに一人で操縦桿を握らせたのだ。
すると、それまでの忍耐が余りに強すぎたため、反動でヴァンのテンションは一気にマックスになった。
その結果、熱を出してぶっ倒れてしまったのだ。


「なあ、ちょっとでイイから〜。」
熱で赤い頬をしながら、尚もヴァンはバルフレアに頼み込む。
「ダメって言ってんだろ。」
ぺしっとヴァンのおでこを叩きながら、バルフレアは冷たく言った。
「ケチ、ケチ、ケチ!」
「うるせー!」
顔を顰めて言い返しながらも、バルフレアは熱に潤んだヴァンの瞳に、妖しげな気持ちを抱きそうになる。とろりとした表情に、濡れたように光る唇が、なにやら卑猥な感じだ。
ヴァンの熱に、部屋の温度もバルフレアの体温も引き上げられていくようだった。
このままでは、つい許してしまいそうな自分の口と、いつまでもうるさいヴァンの口を塞ぐために、バルフレアはヴァンの上に覆いかぶさった。



〜FIN〜



(2011/9/11)


揺波さんのリクエストで「バルヴァンでシュトラール仮眠室での甘い話」

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