二の篭(バルヴァン文)

□バルヴァン中くらいの話
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【2周年記念SS】

゜*。* 楽園 *。*゜



その日は、二ヶ月ぶりのオフの日だというのに生憎の雨降りだった。
夜明け前に降り出した雨は、静かに霧のようにフォーン海岸を包んで行った。
その雨の日特有の物静かでほの暗い朝に、バルフレアとヴァンの二人が目覚めた時には、既に昼前の時間になっていた。
「ん・・・。あれ、もうこんな時間。もしかして雨降ってる?」
もぞもぞと毛布から頭を出したヴァンは、時計と部屋の暗さを見比べて、がっかりした声を上げた。
「なんだよ〜、せっかくのオフの日なのに。」
拗ねたように顔を枕にこすりつけるヴァンを、一足先に目覚めていたバルフレアは苦笑しながら後ろから抱きしめた。
「オフの日だからこそ休めっていう天の啓示だろう。昨日は晩飯の途中で寝ちまうくらい、ヘロヘロに疲れてただろ、お前。」
「だって、久しぶりにバルフレアと過ごすのに。釣りとか、泳いだりしたかったのに・・・。」
旅の頃と同じように、唇を尖らす子供っぽいヴァンの仕草に、バルフレアは抱きしめる力を強くした。
「明日も明後日もある。そんなに拗ねるなよ。」
そう囁いてヴァンの柔らかな金色の髪に顔を埋めれば、ヴァンはくすぐったそうに笑いながら肩をすくめた。その柔らかで艶やかな髪に小さくキスを落としながら、バルフレアは昨日のことを思い浮かべていた。



昨日、久しぶりのオフを一緒に過ごすために、バルフレアとヴァンはフォーン海岸で待ち合わせをしてした。
先に着いたのはバルフレアで、あらかじめ予約して借りていた小さめのコテージでヴァンの到着を待った。窓を開け室内に風を通し、三日間の滞在用に買ってきた食材や飲み物を台所にしまった。そしてバルフレアは、その日の夕食にと近くの酒場から料理をテイクアウトして、テーブルに並べた。
最近のヴァンは、空賊としての腕が周りに認められ始め、依頼や仕事が増えて毎日忙しく飛び回っている。たまさかの休みには、たっぷりと甘やかして労ってやろうとバルフレアは考えていた。
料理を綺麗に並べ終わったバルフレアは、窓辺に椅子を運び、穏やかなフォーン海岸の夕焼けを眺めながらヴァンを待った。
だがヴァンが到着したのは、夕日がとっくに海に沈み、星が夜空に瞬く頃だった。
「遅くなってごめん、バルフレア!すごく待った?」
部屋に駆け込むなり、荒い息のまま尋ねたヴァンに、バルフレアは椅子から立ち上がって歩み寄った。
「少しだけだ。それより、何かあったかと思って心配したぞ。」
相棒のフランには決して見せられない大甘な顔でバルフレアがそう言えば、ヴァンは申し訳なさそうに頭をかいた。
「ごめん、出掛けにモンブランの急ぎの仕事が入って遅くなったんだ。」

モンブランは、モブ討伐を行うクランセントリオの設立者。あの旅の途中に、資金稼ぎやレベルアップに大いに世話になった。今やヴァンのクランランクは最高位で、モンブランに全幅の信頼を寄せられている。そのため、厄介で緊急な依頼が未だに舞い込むらしかった。

「そうか。相変わらずモンブランは人使いが荒いな。」
よしよしと、バルフレアが宥めるようにヴァンの頭を撫でれば、ヴァンも相棒のパンネロには決して見せられないとろけるような笑顔を浮かべた。
「バルフレア、すごく会いたかった。」
そんな可愛い台詞と共に抱きついてきたヴァンを、バルフレアは満足げに抱きしめた。そして耳元に唇を寄せると優しく囁いた。
「疲れただろう。先に飯にするか?それとも、風呂に入ってさっぱりするか?」
まるで新婚カップルのお決まりのような台詞が、臆面もなくバルフレアの口から転がり出る。
するとヴァンも、恥ずかしそうに頬を染めながらも、バルフレアの肩に顎を乗せたまま甘えたように答えた。
「ん―、腹も減ったけど、先にお風呂に入ろうかな。」
部屋中がハートで埋めつくされそうな甘さの中、バルフレアはヴァンを横抱きの、いわゆるお姫様抱っこで浴室へと運んで行った。
「ちょっと、バルフレア。歩けるって。」
大いに照れるヴァンに、バルフレアは気障なウインクをひとつ投げた。
「俺が運びたいんだ。おとなしくしてろ。」
「もう、仕方ないな。」
照れ隠しにわざとぶっきらぼうに言いながらも、ヴァンはバルフレアの首筋に手を回した。そして、うっとりとたくましい胸に頬を寄せた。
久しぶりの二人の逢瀬は、どこまでも甘く熱い。




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