二の篭(バルヴァン文)

□恋するシリーズ
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 ■ CANDY KISS ■



野営に見張りはつきものだ。
だが、睡眠を削っての夜間の見張りは、必要ではあるが楽しい作業ではない。
しかも総勢六名いるものの、年齢、実力、判断力が違う面々なので、どうしてもバッシュ、バルフレア、フランの大人組に負担がかかった。
そんなある夜のこと――――。


「なあ、今晩はさ、オレとパンネロとアーシェで火の見張り番するよ。」
夕食の後で、ヴァンがこう切り出した。
バッシュ達大人組は、神妙な顔をした十代の三人に優しい目を向けた。
「ここは、いつもと違ってクリスタルの側の野営だし・・・。私達だけでも大丈夫だと思うんです。」
今度はパンネロが、おさげの髪を揺らしながら力説する。
「最初はパンネロ、次はヴァン、そして最後は私が見張りをします。」
アーシェも常にはない神妙な口調で、見張りの順番を告げた。
だが、その順番にバルフレアが顔をしかめて、ヴァンの方を見た。
(起きれんのか?)
あからさまな視線だったが、ヴァンはいつもみたいに怒ってわめいたりしなかった。
「ちゃんと起きるよ。女の子に真夜中の番を任せたりしない。オレだって、男だし。」
その言葉にバッシュが大きく頷いた。
「そうか。なら、今晩は三人に任せてみようか。」
「そうね。お願いするわ、お三人さん。」
フランも優しく微笑んで言った。
その二人の言葉に、バルフレアも仕方ないというように肩をすくめた。
「じゃあ、無理すんなよ。何かあったら、すぐ俺たちに声かけろよ。」
そう言って、くしゃりとヴァンの頭を掻き混ぜた。
「了解!」
その手をくすぐったそうに受けながら、ヴァンは笑って言った。



月が夜空高く冴え冴えと輝く頃、ヴァンは見張り番をしていた。
いつもなら、誰かと組んで見張りをしてるか、大人組に任せて寝ている頃だ。小枝を折って焚き火に投げ入れながら、ヴァンは小さなあくびを噛み殺した。
ヴァンが誰かと組んで見張りをする時は、たいていバルフレアとだった。
バルフレアとの見張り番は、ヴァンには楽しかった。
空賊の話をねだったり、シュトラールの性能のことをあれこれ聞いたり、バルフレアが読む飛空学の本を覗いて説明してもらったり。
いつもの皮肉な口調は変わらなかったが、二人きりの時はバルフレアはどこか優しかった。
それがまたヴァンには嬉しいのだった。
(あれ?オレ、バルフレアのことばっか考えてないか?)
ヴァンがそんなことを考えた時、テントからその当人が出てきた。


「よお、ちゃんと起きてるか?」
いつもの軽口をたたきながら隣に座ったバルフレアを、ヴァンはまともに見れなかった。
ドキドキと鼓動がして、わざと怒ったふりでそっぽを向く。
「ちゃんと起きるって言ったろ。」
口を尖らせて言うヴァンに、バルフレアはくつくつと笑った。
「そりゃ、失礼。」
どこか小馬鹿にした言い方に、ヴァンはむっとバルフレアを睨みつけた。だが、その涼しげなヘーゼルグリーンの瞳と視線が合うと、慌ててまた逸らした。
さっきより、鼓動がうるさく騒ぐ。なぜか赤らむ頬に、ヴァンは落ち着きなくそわそわと手を肩や膝にやった。
その時、ヴァンの手が腰の道具袋に触れて、中からカチリと音がした。
「あ、そうだ。」
ヴァンは思い出して、道具袋からガラスの小瓶を取り出した。
「何だ、それは?」
尋ねたバルフレアに、ヴァンは笑って説明した。
「アメだよ。疲れたときは糖分を取るといいってフランから聞いて、この間ムスル・バザーで買ったんだ。」
小瓶の中の色とりどりのそれは、普通のアメとは少し変わった形をしていた。
「東洋のアメでさ、金平糖っていうんだってさ。きれいだろ?」
ヴァンは、小瓶からきれいなグリーンのものを選び出して言った。
指の間に挟んで焚き火にすかしながら、ヴァンはうっとりとその砂糖菓子を眺めた。
「金平糖って、なんかアンタに似てるな・・・。キレイで宝石みたいでさ、そのくせトゲトゲで身を包んでる。でも、口に入れると甘く溶けるんだ・・・。」
そのヴァンの無邪気な言葉に、柔らかな横顔に、バルフレアは不意をつかれた。
目の前の無垢な少年に、息が詰まるほどの愛しさが込み上げてくる。
バルフレアはヴァンの手首を掴むと、その金平糖を自分の口に含み、ヴァンの唇に重ねた。
あっと驚いたヴァンは易々と口を開き、バルフレアはその口内に舌で金平糖を差し入れた。お互いの舌の間で溶けていく砂糖菓子の甘さに、心も甘く溶けていく。
「・・・甘いな。」
そっと唇を離すと、バルフレアは小さく笑って言った。
「バカ・・・。」
潤んだ瞳でヴァンが睨む。
そんなヴァンの口に、バルフレアはまた一つ金平糖を放りこんだ。そして、また唇を重ねる。
まるで子供の悪戯のようなキスに、二人とも夢中になった。
クスクスと笑いながら、次々と口に含んではキスを繰り返す―――。


そんな二人の上で、月が恥ずかしそうに雲に隠れた。




〜FIN〜


(2010/11/21)


このSSをエピソードに使った「記憶の扉」という話があります。


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