鳥檻のセレナーデ
□28幕.饅頭味
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咎 人_
「イヴっ!」
「――っ!!」
不意に襲ってきた強い力に、きつく瞑っていた瞼がパチリと開く。
暗闇一色だった世界は終りを告げ、替わりに入り込んできたのは薄暗い部屋の光景。
……ここ、どこだっけ。
彼は――。
「ティ、キ?」
「……随分魘されてたけど、嫌な夢でも見たのか?」
一瞬目の前にいるのが誰だか分からなかったのは、恐らく、寝ぼけていたに違いない。
直ぐにティキだと思い出して名を呼ぶと、そっと頬へ手が宛てられる。落ち着かせるかのような、宥めるかのように頬を撫でるティキの手。
それでいて心配気に私を見ている事から、相当魘されていたらしい。
大丈夫と告げる為に口を開く。……けれど、何故か声を出す事ができなかった。
多分、今見た夢のせいだろう。
そう、だ。今のは、夢だった。
それも酷く恐ろしい、悪夢。
でも――。
「――よく、覚えてない」
それを言葉にする事すら怖くて、声に出してしまう事すら恐ろしくて、結局告げる事はできなかった。
「……そっか。その方がいいかもな」
「うん……」
追求する事もなければ、言葉をかける事もなくティキの手が頭を撫でてくれる。
私の言葉を信じてくれたのか、それとも私を気遣ってくれたのかは分からないけれど、その気持ちが嬉しかった。何も言わずに頭を撫でてくれる手が心地よかった。――ものの。
「……というか、何でティキがここにいるの?」
「ん」
完全に目が覚めた事で思考も働き始めたのか、ふとティキの存在に疑問を感じる。勿論、なんでここにいるのか、という意味で。
何せここは私が借りた部屋で、ティキは隣の部屋の筈。
「や。一人で寂しいかと思って夜這に」
「でてけバカァァアッ!」
「ぐはっ!?」
あ、つい思いっきりお腹を蹴り飛ばしてしまった。……い、いや、自業自得、因果応報ってやつなんですよ。うん。
先程の事等すっかり忘れては、ポイッと部屋の外へと放り出しておく。どうやって運んだのか、また放り投げたのかは乙女の秘密という事で。
「あ、もう朝なんだ……」
ティキを部屋から放り出した……もとい、追い出した所で、窓の外が薄らと明るくなっている事に気が付いた。
これなら日が昇るまで、そう時間は掛からないだろう。今寝たらお昼過ぎまで眠ってしまいそうだ。まぁ、元々眠れそうもないけど。
「……はぁ」
何かに対してではないけれど、つい口から溜息が零れてしまう。……いや、強いて言うなら、先程夢で聞いた言葉のせいかもしれない。
「兄さんと同じくらい大好き」
あれは多分、子供の声。
初めて聞いた筈なのに、何故か酷く懐かしい気がする。
でも、兄さんって誰のこと?
貴方は誰?
"私"のこと、知ってるの?
「……あーもうっ頭いたい!」
「だから俺が添い寝して」
「勝手に入ってくんなァアアッ!!」