鳥檻のセレナーデ
□28幕.饅頭味
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饅頭味_
「間違いなくな」
お饅頭を齧りつつも、感情等篭っていないかのような声で平然と告げるティキ。その言葉に、まるで頭の上へと大きな岩が落ちてきたような感覚に襲われた。
「そんな……折角初めて出来た友達なのに」
「初めて、ねぇ。少年はイヴの事、前から知ってたんじゃねぇの?」
「前から? どう、だろ……特にそんな様子も無かったような気はするんだけど」
初めて出会った時の事を思い出しては、「うーん」と考え込むかのような声が零れる。
言われてみると、思い当たる節が無い訳でもない。私の名前とか、何時も何か言いたげな所とか。
でも……だからと言って、アレンが何かを企んでいるようには思えない。
上手くはいえないんだけど、アレンなら大丈夫っていうか、信用できるというか。……けど、なんでだろう?
「――あ」
そう数秒程アレやコレと考えていると、唐突に、それこそふと答えに行き着いた。
「そっか、ティキに似てるんだ」
「は?」
突然の私の言葉に「何が?」と、やっぱり不機嫌な表情で尋ねるティキ。
でもその手には新しいお饅頭が握られていて、何所となく不釣合いな光景だ。
「アレンとティキ。何となくなんだけど、二人が似てるなって」
「はぁ? あの少年と俺が?」
「うん、顔とかじゃなくて雰囲気がね。……そっか、だから私アレンの事好きなんだ」
釈然としない表情のティキを隣に、一人納得と言わんばかりの笑みを浮かべる私。初めて会った時からなーんか気になってたんだよね。理由が分かって良かった!
「清々しい気分の所悪いんだけど、もっかい今の言葉言ってくんね?」
「今の言葉?」
「雰囲気がどうのこうのの後。何か言ってただろ」
「? だから私、アレンの事が好きなんだ?」
言われるままに台詞を復唱すると、何故かティキは複雑そうな表情を浮かべていた。なんでだ?
「それって喜ぶべき事なのか、それとも危険視するべきなのか……」
「え? 何か言った?」
「別に。つーか俺、あんなに腹ん中黒くねーし」
いや十分黒いよ、うん。……なんて言ったら余計機嫌が悪くなりそうだから、今はぐっと我慢。
「しっかし、あの少年と似てるねぇ」
ごくん、とお饅頭を食べ終わっては、ティキから何かを言いたげな声色が零れる。
やっぱり納得はいかないみたいだけど、それでも先程よりかは落ち着いたらしい。お腹が膨れたお陰で機嫌も直ったのかな。
良かった良かった。と心の中で呟いては、私もお饅頭を食べようと紙袋を開く。――と。
「って、ない!?」
紙袋の中身はものの見事に空っぽ。
まさか……! と、思って視線を向けると、「やべっ」とティキから小さな声が聞こえてくる。同時に反らせられる視線。やはりティキが全部食べてしまったらしい。
そりゃ待たせたのは悪いとは思うけど、だからって全部食べるなんて……というか、中国語話せないからってティキが買いに行かせたんじゃんっ!
「ま、まぁ、あれだ」
どうしてやろうかと睨みつけつつ考えていると、突然ティキの腕が動き、私のフードの両サイドを掴む。
予期しない行動に、思わず「なんだ?」と声をあげようとした。――けれど、私の口から声が出る事は、というより唇を動かす事ができなかった。
突然身体に加わった力。それによって視界が動いたかと思えば、何故か直ぐ目の前にあるティキの顔。また唇から伝わってくるのは、柔らかい感触。……と、戻ってくるまでにちょっとだけ食べる事のできたお饅頭の味。
なんで今お饅頭の味がするのだろうと思っていると、ティキの顔がゆっくりと離れていく。
「これでおあいこって事で」
元の距離へと戻った後で告げるティキに、「何が?」と首を傾げ――ようとしたものの、それよりも先に一時停止していた思考が再び活動を始める。
それにより、一瞬で熱が篭る私の顔。それでもよく以前のようにオーバーヒートしなかったものだと、別の意味でも驚いてしまう。
「な……っ、なななななっ!?」
「もう家族、つか、俺以外とキスすんなよ?」
顔を真っ赤に染め、更に口を抑えた状態で今更距離を取る私に、漸くティキの顔に笑みが戻る。
もっとも、その表情を見て「やっぱりティキも黒い!」と声を荒げる事になったのは言うまでもない。
「――というか、アレンとキスした事話したっけ? 確か省略したら言ってない筈なんだけど……」
「さぁて、そろそろいくかー」