鳥檻のセレナーデ

□26幕.そして鈴は鳴り
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そしては鳴り始める_




その後は、大して時間は掛からなかった。と言うより、"予想外な結末になった"、というべきだろうか。



「あの人、あのままでいいの?」



水に濡れないようにと、ティキの片手に抱き上げられながら水面を移動していく。
その際、ティキの肩越しに見えた光景にポツリと呟くと、「ああ」という声が直ぐ近くから聞こえてきた。



「あの様子なら大丈夫だろ。それに、仲間に報告した時点でティーズが食い殺すしな」

「ふーん……」



振り返る事なく告げるティキに、代理のように私の視線が動く。
背後の浅瀬へと膝を付き、絶望と恐怖で染まった顔を俯かせている男の人。――彼はまだ息をしている。対した傷を負う事もなく、ただ愕然と項垂れている。

今、彼はどんな心境なのだろう。
魂と共に仲間まで悪魔に売ってしまった事を、深く後悔しているのだろうか。
それとも、微かながらに延命できた事を安堵しているのか。
或いは、こんな運命になった事を呪っているのかもしれない。



「なんか不満?」

「そういうわけじゃ、ないんだけど」



考えた所で"答え"こそ分からないけれど、一つだけ分かった事もある。

エクソシストと言えど、やはり人間だと言う事。笑いもすれば泣きもする。怒りを感じれば、死への恐怖に屈しもする。

ただの人間なのに、それでも自らを神に選ばれた者と呼び、周りと一線引く彼等。
そう考えると、何だか凄く滑稽に思えた。



「……あの人、殺すの?」

「そりゃエクソシストだし」



ただの人間なのに、それでも自分達を神の使徒だと信じ込み、人を守ろうとする彼等。
そう考えると少しだけ愛しく思えて、なにより哀れに思えた。



「イノセンスだけ、壊せばいいんじゃない……?」

「……何? なんか思い出した?」



少しだけ声色を変えて告げるティキに、落ちないようにと彼の首へと回していた手に力が篭る。



「分からない――でも」



記憶自体は未だに蘇る気配はない。
でも、さっきあの男の人に捕まった時。死にたくないと命乞いをする男の人を見た時。今、愕然と項垂れている男の人を見て……確かに、身体に異変を感じた。






「心が、痛い」


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