鳥檻のセレナーデ
□26幕.そして鈴は鳴り
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26★そして鈴は鳴り始める
回 SiDE:イヴ 回
どこまでも続く雄大な晴天。
ゆっくりと風に流れる白い雲。
青々と生い茂った木々。
「――」
そんな大自然に囲まれ、静かに歌を口ずさむ私。
歌に導かれてきたのか、何時の間にか周りには小動物と鳥達の姿もあった。
まるで童話の中にいるかのようで、ちょっぴり楽しい気分。
―ぐぎゅるる
もっとも……空腹さえなければ、の話だけど。
「ティキー、お腹空いたぁ」
「動物は寄ってくるくせに、なんで魚はよってこないんだろうなぁ」
地面へと座り込みながらも背後……背中を持たれかけさせているティキへと話し掛ける。
山へと視線と身体を向けている私とは反対に、ティキの目の前には広大な水溜り……もとい、広大な湖。
水面は至極静かで、波は疎か、波紋の一つも無い。
由一静寂を乱そうとしているものと言えば、ティキの前から一本だけ垂れ下がっている糸位だろう。ティキが持つ棒っきれと糸……もとい、即席の釣竿と釣り糸。
身に纏っているコートが高級品なだけに、何だか物凄くシュールだ。
「絶対、この湖に魚なんて居ないし」
「いやいる。絶対いる」
「その自身は一体何所から……」
「俺の勘」
くっ……。お腹さえ空いていなければ一発殴ってやったというのに。
大体、ティキの勘程当てにならない物はないと思う。……いや、野性的な意味では凄いとは思うけどさ。色々と。
「もう街に戻って食事しちゃおうよー……」
「もう少しだけ我慢しろって」
釣りは忍耐が勝負。と、湖を睨みつつ、力説するティキ。
言ってる事は正しいのかもしれないけど、ティキの場合は忍耐というより、意地になっているだけのような気がする。
うう……「ティキに釣れるの?」なんて、言ってしまったあの時の自分が恨めしい。
「ティキのばかー……」
「今に大物吊り上げてやっから」
それ30分前にも聞いたんですけど。というか、もういっそ湖の中入っちゃえばいいのに。クマみたいに鷲掴みにしちゃえばいいのに。このまま蹴落としてあげるから水の中見てくればいいのに。
「ちょ。なんか恐ろしい事考えてない? ていうか声にでてるんだけど」
「 飢え死にしたら祟ってやる 」
「こわっ!?」
空腹のせいで思考が働いていないというか、意識が遠のきつつあった。――そんな時。
「すみません」
「ん?」
不意に第三者の声が響いた事で、私とティキの声が揃い、また同時に顔を横へと向ける。
丁度私とティキの横に位置するように立っていたのは、黒いコートを纏った男の人だった。
「この辺りで、このような人物を見かけなかったでしょうか」
言葉と共にピラリと提示されたのは、一枚の薄い紙。つい反射的にソレへと視線を向けてしまうと、描かれていたのは厳ついマスクだった。――って、あれ? これ、マスクだけ、だよね? 流石に顔には見えないけど、人でもない……よね。
あ、「このような(被り物をした)人物は見かけなかったか」って意味なのか。
「見なかったよね?」
「まぁこんな所誰も通らないしな」
寄りかかっていたティキの背中から体を起しては、私もまたティキへと問い掛ける。
今いるのは山の頂上付近。かれこれ1時間程ココにいるけど、こんなゴツイ人は勿論、人の姿すらみていない。……と、思う。何せ空腹で意識が……うう。
ちなみに何でこんな山奥にいるのかと言うと……まぁ、色々とあったのです。
「あ〜、久しぶりに生魚食いたいな」
「魚って生で食べれるの?」
「ん? そーいやイヴは食った事ないんだっけ。まぁ千年公……つか、他の奴等があんまり好きじゃねぇから当然か。でもマジで美味いぜ。一度食べたら病みつきになる」
「へぇー。何処で食べれるの?」
「池か湖」
「……へ?」
「あー、考えたら益々食いたくなってきた。――よし、今から行くか。イヴにも取れ立て食わせてやりたいし」
……という訳で、地元の人の話を元にココへと到着。更に挑発紛いな私の一言により、かれこれ一時間程苦しんでいた……という流れなのです。
ああ、どうしてあの時「ティキの釣り捌きより、調理捌きの方が見たい」って言わなかったんだ、私……!
「そうですか、失礼しました。――所で」
……いや、それはそれで危険な気が。なんて頭を抱えていると、前の男の人から再び声が聞こえてきた。