鳥檻のセレナーデ

□22幕.二重生活
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24★
□ SiDE:Le □



事に二人……アレンくんとラビ、そして新しく仲間になったクロウリーさんと合流して早数時間。
私達は無事に中国大陸に入り、ティムの反応を元に目的であるクロス元帥を探していた。

中国には無事に入れた……のだけれど、合流してからというもの、何処となくアレンくんとラビの様子がおかしい。アレンくんは溜息ばかり落としているし、ラビは何となく上の空。
それとなく二人に尋ねてみたけれど、返って来る言葉は揃って「何でもない」の一言だけ。
別行動中に何かあったのかとクロウリーさんにも聞いてみたりもしたけど、彼も首を傾げていた。

もしかしたら長旅の疲れが出てきたのかもしれない。アレンくんなんて、クロス元帥に会うというだけで気が滅入っているようだし。

そう思ってそれ以上追求する事は無かった。――けれど、それは偶然。本当に事故のようにして、彼等の話を聞いてしまった。



「ラビ。やっぱり僕、知りたいです。考えないようにしようとすればする程、彼女が。イヴの事が頭から離れないんです……!」



――イヴ。

確かにアレンくんから聞こえた名前に、抱えていた荷物が地面へと落ちていた。



「っ!? リナリー! まさか、今の聞いて……っ」



それなりの高さから落ちた事で音が鳴り、二人の視線が同時に私へと向けられる。驚いたように私を見るアレンくんと、顔を青くさせ、動揺で隻眼を揺らしているラビ。
多分私も、彼等と同じように驚き、瞳を不安で一杯にしていたのかもしれない。



「イヴって……? 彼女が、どうしたの?」

「……っ、なんでもな」

「嘘! 合流してから二人共様子がおかしいじゃない! もしかして彼女に関係あるの!?」



アレンくんが驚いているのが分かる。でも今は気にしている余裕すらなくて、まるで問い詰めるかのようにラビの服を掴む。



「答えてラビ! もしかしてイヴを見つけたの? 彼女は生きてるの!?」

「生、きて、る……?」



口を噤んだまま顔を背けるラビに、容赦なく言葉をぶつけていく。
酷い事をしている、酷い言葉をぶつけていると、自分でも分かっていた。
ラビだって私達と同じように辛い筈なのに……ううん、もしかしたらラビが一番辛いかもしれないというのに。

それでも、今の私には彼女の生死の事しか頭になくて。それしか聞こうとすらしていないくて。



「それはどういう……」

「イヴ嬢は任務中に死亡した――そうなっておる」



そんな私に驚いていたアレンくんから言葉が零れるものの、全てを言い終わる前に第三者の声に覆われてしまった。
それとも、アレンくん自身が驚きのあまり最後まで言えなかったのかもしれない。



「……っ、じじぃ」



突如聞こえてきた声に三人して振り返ると、そこにはブックマンとクロウリーさんの姿があった。多分、私の声を聞いて様子を見にきたのだろう。



「死、んだ……?」

「――っ」



驚愕した声と表情で呟くアレンくんに、ラビの服を掴んでいる私の手に力が篭る。


――違う。


そう、叫びたかった。声を荒げて、怒鳴りつけるように、彼女は生きていると断言したかった。
でも……彼女が生きているという証拠がなくて、確認する術がなくて。
結局、何も言い返す事ができなかった。



「そん、な……だって、彼女は、確かにあそこに……」

「アレンッ!!」



それ以上は言うなと、ラビの叫び声が響く。けれど、その時にはもう言葉が音となってしまった後で。



「――やっぱり、イヴを、見たのね……?」



アレンくんの言葉に、ラビの態度に、自分が震えているのが分かる。隠していた彼等に怒っている訳ではない。漸く見えた希望に、必死に縋ろうとして震えていた。声も手も足も、体も心も、私の全てが。



「お願い……答えてっ!」



『確かにあそこに……』アレンくんはそういった。それはつまり、彼女は生きているという事なのよね? 死んではいない、のよね――?



「……っ――ああ。イヴは、生きてる」

「――」



数秒の間の後、ラビから意を決したような声が零れる。もう隠し切れないと思ったのだろう。

その言葉が聞こえた途端、脚から力が抜けてしまった。その場に立っている事もできず、ラビの服を掴んだまま座り込でしまう。


――生 き て い る。


ずっと、その言葉を聞きたかった。
ずっと、その言葉を言って欲しかった。



「イヴ――っ!」



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