鳥檻のセレナーデ
□22幕.二重生活
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少女の決意_
回 SiDE:イヴ 回
ロードと千年公がいるレストランを後にしてから、早数十分。
「ティキ!」
街の外れにまで差し掛かった所で、漸く探し人を見つける事ができた。
その姿を確認しては、息を整える事なく名前を叫ぶ。
「ん――イヴ?」
突然名前を呼ばれたからか、それとも私がここにいたからなのか、振り返ったティキは見るからに驚いた表情を浮かべていた。
「私も、行く……っ!」
「……は?」
荒い呼吸のままティキへとと近づき、更にその身体へと抱きつく。いや、"しがみ付く"と言った方が正しいかもしれない。
突然そんな言動をされても、困らせるだけだと分かってはいる。分かってはいるのだけど、今の私にはそれしか言えなくて。ただ、離れまいとティキの身体にしがみ付く事しかできなかった。
「私も、一緒に行く……っ」
「えーと……。もしかして、千年公に与えられた任務の事?」
再度同じ言葉を告げる私に対し、やや戸惑ったようなティキの声が頭上から降り注ぐ。その言葉にコクコクと顔を頷かせれば、数秒の間の後で「はぁ」と声が聞こえてきた。
「あのな。今回は何時もみたいに遊びながらって訳にはいかないんだよ」
「なら私も手伝う。千年公は一緒に行って良いっていってから」
しがみ付きながらもティキの顔を見上げると、何故か「うっ」と言う声が聞こえてきた。
困っているというか、慌てているというか……今の私には見合う言葉が分からない。まして何故そんな顔を浮かべているのかも分からなかったけれど、それでも引く事はできない。
千年公から得た許可も、半ば強引だった為に、余計。
「や。でもやっぱり今回は……」
「じゃあ……いい」
それでも返事を渋るティキを見ては、スッと抱きついていた体から離れる。
その際私の表情が曇っている事に気が付いたのか、ティキもまた申し訳無さそうな顔を浮かべていた。――けれど。
「なら、この任務は私が変わりに引き受ける。ティキはイーズ達とゆっくりしてれば」
「へ? ――あ、こら」
言葉と共に、ピラリと手元のカードをティキへと見せ付ける。
千年公から受け取った任務書。暗殺する人の名前がビッシリと書かれているカードを。
ふふん。しがみ付いた時にコッソリ抜き取ったのさ!
「おまっ、何時の間にそんな手癖が悪くなったんだ? ……ああ、もしかしてあの白髪の少年か? 確かに奴はカードのプロだったしな。お前ももう少し友達は選んでだな――って、ちょっと、何所行くのー」
ブツブツと文句を告げるティキを他所に、クルリと体を反転させる私。
今のうちに戻ってしまおうとも思ったけれど、意外と早く気が付かれてしまった。
「ロードに扉出してもらう。その方が速くつけるし」
んで、ティキの仕事は全部私が貰うから! と、手を握り締めながら力説する。
ティキはノアの仕事なんて首にされて、イーズ達と炭鉱仕事してればいいんだ。……そう告げ足そうとした所で、それはそれは盛大な溜息が背後から聞こえて来た。
……なんだか呆れられているような気もするけど、ティキには私の気持ちなんて分かるまい。私だって皆の役に立ちたいんだよ!
「わーった、わーった。連れて行ってやるって」
「……ほんと? 置いてったりしない?」
「置いてたってロードに頼み込んで先回りすんだろ。それに見てない所で暴れられるより、目の届く所で暴れられた方が幾らかマシだしな」
本当に幾らかだけど。と観念したかのように嘆息を零し、呆れた声と表情で告げるティキ。でも、それも一瞬の事で。
「ほら、おいで」
私に向かって、ティキの片手が差し出される。顔はやっぱり苦笑に近い笑みだったけど、それでも普段の彼の顔。
何時もの、優しいティキの瞳。
何時もと同じ、私の好きなティキの声。
普段の彼へと戻った事が嬉しくて、私もまた笑みを浮かべてはティキへと駆け寄っていく。
今まで言った事はなかったけれど、私がその行動……差し伸べられる手や言葉が好きだと言う事、ティキも知っててやってるみたいだ。
「まったく、とんだワガママ姫だな」
駆け寄ったのと同時に抱きつくと、ティキもまた抱きしめ返してくれる。優しくて、暖かいティキの手。大きくて、とても安心できるティキの体。
その胸へと顔を埋めながらも、一人、決意を新たにする。
ティキが私を守ってくれるように、私もティキや皆を守るという決意を――。
「(しかし……こいつと長期任務なんて持つのか? 俺の理性)所でさっきから気になってたんだけど、なんで服に血が付いてる上に破れてんの?」
「ギクッ」