鳥檻のセレナーデ

□22幕.二重生活
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少女の決意_


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それから、どれくらいの時間がたったかはわからない。だけど不意に、ふわりと暖かい感触を感じた。
暖かくて、柔らかい感触。まるで何かに包み込まれたかのような感覚に、沈んでいた意識が戻ってくる。


――俺は……死んだ、のか?


……いや、まだ自分の体が残っているのが分かる。自分の鼓動が動いている音が聞こえる。
だから俺は、生きているのだろう。


――この温もりはなんだ?


暖かくて優しくて、妙に懐かしい。


――ああ、そうだ。


これはあの時に似ている。嫌がる俺を、無理やり抱きしめるアイツの体温に。

アイツ……?
アイツは死んだ。
血塗れのボタンをみただろう。


――いや……違う。


なら、さっきみたアイツは誰なんだ?
死んだ筈のアイツと同じ顔をして、同じ声をしたあいつは……誰だ。


――そうだ、アイツだ。


イヴは……。






(生 き て る ん だ)






「――っ!!」



瞑っていた瞳を見開き、横になっていた身体を飛び起こさせる。
間髪入れずに周囲へと視線を向けるものの、何が起こったかだけは判断する事ができなかった。

視界に入ったのは暗い空と、アーチ状になっている天井に煉瓦の壁。更に俺の手元には六幻と、止まっているゴーレムが落ちていた。
ここは……鉄橋の下? デイシャ達と無線で連絡していた時と同じ場所、か?



「夢……?」



手元の六幻を握り締めては、暫し唖然とする。

今のは、夢だったのだろうか。
だとすれば、一体何所までが現実で、何処からが夢なんだ。

数秒程呆然とした後で、思い出したかのように自分の身体へと視線を向ける。
アレが夢だったのなら、傷も追っていない筈。そう思ってコートの前を広げる。――と。



「……ない」



俺の身体には、傷らしいものは見当たらなかった。服こそ破れて血が付いているが、それが先程のものであるという確証はない。何せ傷自体がないんだ。幾らなんでも、こんな短時間で綺麗さっぱり無くなるだなんて最近ではありえない。

だとしたら――全てが、夢だったのか?
アイツを見た事自体夢で、一瞬でも会いたいと思った気持ちが、あんな夢をみせたと言うのか……?



「――クソッ!」



片手を傍の壁へと打ちつける。
自分の情けなさに反吐が出そうだった。
俺は何時からこんな弱くなった。
俺は、何時からこんな……っ。

もう一度壁を殴り、唇を強く噛締める。手から伝わってくる痛みを噛締めた。



「……」



暫しそのままの体制で居たものの、集合時間を思い出しては身体を立たせる。
六幻を握り締め、何故か止まっているゴーレムの緊急回線だけを開き、ただ前へと視線を向ける。

その時、ふと足元に何かが落ちている事に気がついた。俺が立ち上がった事で共に落ちたのか、それとも元々下に落ちていたのかは分からない。――だが、それが布であり、それに血が付いている事だけは分かった。

明らかに俺のものではない、白に近い銀の布。止血にでもつかったのか、細長く破かれているその柄は、確か――。



「夢じゃ、ないのか……?」



額へと手を当て、先程の光景を思い浮かべる。間違いない。この柄はさっきアイツが着ていた服と同じ物だ。それが何故ここに落ちている。夢だとしたら存在すらしない筈だ。


――やっぱりアイツは……。


思い出せば思い出す程、先程の光景がより現実味を帯びていく。俺の鼓動が大きくなっていく。

徐々に疑いから確信へと変りつつあった。――その時。静寂に包まれていた周囲へと、ノイズと雑音が響き渡った。突然ゴーレムの緊急回線が開いたようだ。
このノイズは……デイシャか?









『――…――って…――――――…』






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