鳥檻のセレナーデ

□22幕.二重生活
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23★
□ SiDE:K □



りは静まり返っていた。
深夜という時間も関係はしているのだろう。――だが、それにしてもこの街は静か過ぎた。



《――腹――たな》

「……あ? 何言ってやがる?」



不意にゴーレムから木霊する音。それが声である事はわかったものの、言葉だという事までは理解できなかった。

お世辞にも聞こえが良いとは言えないノイズと雑音。その中から辛うじて分かる事と言えば、声の主が兄弟子の一人であるデイシャという事だけ。



《音悪いな、デイシャ》

《――っくもー、最近調子――いじゃん、俺の無線ゴーレ――》



もう一人の兄弟子であるマリの言葉に、不機嫌そうなデイシャの声が反応する。

俺と共にこの街にやってきたマリとデイシャ。俺達にある共通点は大きく分けて三つある。同じエクソシストであり、同じ師を持ち、その師を教団の命令で探しに来た事。

ティエドール=フロア。それが俺達の師の名前であり、そして俺達の目的の人物。

その人物がこの街……スペインのバルセロナで見かけたという情報を経て来たのだが、到着した俺達を出迎えたのは、もっと別の物だった。
意思を持つ敵の兵器、AKUMA。それも半端ではない数の"歓迎"に合い、現在部隊は離散してしまっている。



「お前ら。今、どこにいる?」

《デケ――塔から東に三キロくらい?》

《私は西5キロと言った所だろう》



ッチ、見事にバラバラだな。
考えたくは無いが、もしかしたらアクマの狙いは分散させる事だったのかもしれない。
だとするなら、早めに合流したほうがいいだろう。



《アクマ達の機械音があちこちで聞こえる……奴等の密集地に入ってしまったな》

「集まろう、10キロ圏内ならゴーレム同士で居場所が辿れる」

《じゃあ、オイラと神田でマリの――っさんの所に集合で――》

《時間は?》



マリの声と同時に、周囲の空気が震える。……また来やがったか。
壁の奥から感じる気配は、少なくとも四、五体。いや、七はいるな。

少しでも休ませ置こうと地面に座っていた体を立たせ、手に持っていた六幻を抜刀する。



「夜明けまでだ」



それを最後の通信として、一時的にゴーレムの無線を切った。
万が一の為に緊急回線は開ておくが、戦闘中に邪魔が入ったら面倒だからな。

そう、ゴーレムの設定を音声のみで変更した。――直後、空気が一段と震える。その異変に真っ先に反応を示したのは、俺の脚だった。
瞬時に地面を蹴り上げて空中へと舞うと、数秒と立たずして抉られる地面。

その光景を一瞥しつつ、飛び上がった身体を反転させては、鉄橋の天井へと脚をつける。勢いが消えないうちにと天井を蹴り飛ばし、鉄橋の外へと飛び出した。

周りが開けた事で背後へと振り返ると、そこには複数――凡そ七.八体のアクマの姿が目視できた。大半はレベル2か。


――なんだ、この街は。


街中を俳諧するレベル2と、上空から監視するレベル1。明らかにアクマの数が尋常ではない。


――この街に何かあるのか?


これだけのアクマがいるんだ。何かあるとみて間違いは無いだろう。
だとすれば可能性は少なくとも二つ。

一つはイノセンス。情報こそ入っていないが、アクマの方が先に知っている可能性も十分ありえる。

もう一つは、ティエドール元帥が近くにいる事。

エクソシストの中でも特に優れた能力を持つ者だけがなれる"元帥"。その数はエクソシストよりも更に少なく、世界で五人……いや、四人しかいない。
強大な力を持つからこそ、今彼等は非常に危険な状況にあるのだという。アクマだけではなく、アクマを操る一族――"ノア"にすら命を狙われているのだと。

イノセンスにこれだけアクマが集結するとも思えないし、やはり対元帥用として考えるのが妥当だろう。



「ッチ」



うろちょろと移動する元帥と、切っても切っても沸いて出てくるアクマ。この二つに共通しているのは、どちらも共に「ウザイ」という事だ。

どっちも大人しくしやがれ。と舌打ちを零しつつ、六幻でアクマを切り伏せていく。
半数程破壊した所で、集合場所へと走りだそうとした。――そんな時だった。



(……蝶?)



ふと、俺の前方。道の最奥で交差している通りの宙を、小さく白い物が浮いていた。
不規則に上下へと揺れ動くソレ。大きさ的に言っても鳥か蝶だろう。
"銀"という色である為に、暗闇の中でも一際目立っていた。

だが、それよりも俺の目を引いたのは――その蝶の後を走っている人間の姿だった。


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