鳥檻のセレナーデ
□22幕.二重生活
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22★二重生活
回 SiDE:イヴ 回
スペインのバルセロナ。
目が覚めた後、ティキと共に千年公に連れていかれたのは、その街の中心に位置する三ツ星レストランだった。
「イヴー! 久しぶりぃ〜!」
「わっ!?」
部屋に案内された直後、身体へと走る強い衝撃。不意と勢いのせいで思わずよろけてしまったけれど、突進……もとい抱きついてきたロードはケラケラと笑っていた。
「久しぶりって、最後にあったの三日前だよね?」
「三日もイヴに会えないなんてボクには拷問なのぉ!」
あー、これこれ。癒される〜♪ と、どこぞのオジサン……ごほん。ご老体のような言葉を告げつつ、スリスリと私の胸元に顔を埋めるロード。
外見相応の子供らしい姿が可愛くて、つい頭を撫でて甘えさせてしまう。
……これがティキだったら、間違いなく悲鳴と共に二、三発殴ってるんだろうけど。
「で、何時まで抱きついてんの」
「なんだ、ティッキーいたのか。Hola」
「最初から居たわ」
「んじゃぁ、そのほっぺたの赤いのも最初からぁ?」
「これはイヴからの愛の証なんだよ」
フッとかっこつけるティキだけど、ほっぺたの赤みが邪魔して全然かっこよくない。
まぁ、確かにそれを付けたのは私だけども。で、でもドレスに着替えようとした所を覗こうとしたティキが悪いんだ。
「恋人なんだからいいじゃん」って言うけど、その……ま、まだ恋人じゃ、ない、し……?
「イヴたまー! 手伝って欲しいレロ!」
「わっレロ!?」
"恋人"という言葉に妙な気恥ずかしさを感じていると、テーブルに積み重なっている本の間からぴょこんとカボチャが顔を出した。
カボチャと言っても勿論見た目だけで、その身体はなんと傘。彼? も、千年公が作ったゴーレムの一つあり、可愛らしい外見とは裏腹に決行重要な役を持っている……らしい。
でも普段は使いっぱしりとか、ロードに苛められたり、ロードの遊びに付き合されたり、ロードの宿題を手伝わされたり、とちょっと可哀想な役回りが多い。
これも痛くロードに気に入られてるからだと、自慢なのか落胆なのか分からない声で言っていた事がある。
多分今もロードの宿題を手伝わされているのかもしれない。……とすると、もしかしてテーブルの上にある本全部宿題?
なんて思っていると、不意にガツンと言う鈍い音が部屋の中に轟いた。
「わりぃ、手が滑った」
「ひ、酷いレロ……ガクッ」
鈍い音は私の直ぐ目の前……私の顔に擦り寄っていたレロから発せられたようだ。へなへなと地面へと崩れていくレロ。その頭上には、背後からティキの手が伸びていた。
何をしようとしたらそんな風に手が滑るんだろ?
「それより、沢山本が載ってるけど何してんの?」
「見てわかんねェ? ベンキョォー」
「学校の宿題、明日までなんですッテv」
あの量を、明日まで……!?
「やべぇの。二人共手伝ってぇ」
猫が甘えるような声を出すロードだけど、その瞳には有無を言わせぬ光が秘めている……気がした。
実際私は有無を言うを前に腕を引っ張られ、テーブルの脇にある椅子の一つへと座らせられてしまう。
……う、近くで見ると益々凄い量。
疎らに料理も置かれてはいるけど、これではダイニングテーブルというよりも勉強机の方がシックリくる。
「学ねぇんだよ、俺は」
「字くらい書けんだろ。イヴはこっちお願ぁい♪」
あまりの本の多さに、うんざりとした表情を浮かべるティキ。多分私も。
このタワーの中身が全て真っ白だというのだから、見ているだけで気が遠くなりそう。話でしか聞いた事がないけど、学校って怖い所なんだな……。
「今夜は徹夜でスv」
「ちょっとまさか、オレ達呼んだのって宿題のため?」
「イヴに会いたかったからに決まってんじゃン。ティッキーはオマケ〜?」
ああ、ソウデスカ。と返答しつつ、手渡された本へとティキの視線が動く。半ば投げやりのようだ。面倒見が言いと言うか、諦めが言いというか。
ロードもロードで、オマケでもしっかり宿題を手伝わせるのだから"最強"だと思う。
……もっとも、ティキは"最凶"なのだと力説してたけど。