鳥檻のセレナーデ
□22幕.二重生活
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生存確認_
「でも……皆受け入れられなかったわ。どんなに酷い怪我をしても、どんなにボロボロになっても、イヴは必ず帰って来たから。『ただいま』って、苦笑いを浮かべながらも帰って来てくれたから……。だから、今度もきっと帰って来るって信じてた。――ううん、私は今でも信じてる」
……俺も、ずっと信じていた。
きっと何所かで療養していて、ある日ひょっこり帰って来るんじゃないかって。
『勝負、負けちゃった』なんて言って、笑顔を見せてくれるんじゃないかって。
でも――彼女は、恐らくもう……。
「……リナリー、落ち着いて聞いてくれ」
「え?」
それを話していいもなのか、正直分からない。でも、リナリーにはそれを知る権利があると思う。彼女の中で決着をつけるためにも。
「イヴは確かに生きてる。でも、恐らくもう――帰ってくる事はない」
「……」
ソレに対しての返答はなかった。
恐らく、俺達が連れてこなかった事で薄っすらと気がついていたのだろう。
「彼女は多分、記憶を無くしてるんだ。もう、俺達の知っているイヴじゃない」
彼女は、俺を見ても何も言わなかった。
俺達の団服を見ても、彼女からは何も反応が無かった。
「だからもう――」
「うん……なんとなく、分かってた」
何所か困ったような笑みを浮かべるリナリーに、小さく胸が痛む。……やっぱり、気がついていたのか。
「でも、それでもいいの。どこかで生きていてくれるなら、笑っていてくれるなら。イヴはもう――十分戦ったもの」
「……ああ」
彼女は十分戦った。
その手を、身体を真っ赤に染めて。
皆を守る為に、その優しい心をもボロボロにしてまで。
だから、無理に彼女を連れ戻す事が出来なかった。――だから。
「イヴの事はそっと」
「恐らくそれは無理だろう」
して置いてやって欲しい。そう声をかけようとしたものの、俺の言葉を遮ったのは――他でもない、じじいだった。
唐突に遮られた言葉に、俺とリナリーだけではなく、全員が驚いたように視線を向ける。
「イノセンスを所持しているとなると、アクマや教団に狙われる。かと言ってイノセンスを失っていたとしても、やはり変らぬのだ。もしかしたら、もう――動いているかもしれぬ」
「なっ……!?」
変ら、ない……?
一体どういう事なんだ?
何でじじいがそんな事を知ってるんだ!?
「何でだよ、じじい! どうしてそんな事を!」
「イヴ嬢は可哀想な人だという事だ。いや、哀れというべきか……。それがどういう事なのか、お前にもいつか分かる時がくる。――必ず、な」
そう静かに告げられた言葉に、目の前のが暗く染まる。
それはまるで、彼女を失った時と同じ程に酷い、眩暈だった。