「……」
笑顔で手を差し伸べてから数秒。
先程までの騒ぎが嘘のように静まり返っている。というより、私がそう感じるだけなのかも。
空しく差し出されたままの私の片手。でも、だからと言って諦める気はない。折角友達を作れるチャンスなのだから、ここで気後れしていては駄目だ! 辛抱強く、辛抱強く……。
「……」
そんな私の気持ちが通じたのか、それとも私の"念"に負けたのか。更に数秒程した所で、躊躇いがちではあったけど、そっとイーズが私の手を握り返してくれた。
どうやら、少しだけでも警戒を解いてくれたみたいだ。よかった!
――えーと、確か更に警戒を解いて貰うには……。
なんて、イーズの手を握りながらも本の内容を思い出していた――その時。唐突に背後の列車が空気を振るわせた。発車の合図だ。
「やべっ。あれに乗り遅れると、次の列車は明日だぞ!」
「なにぃ!? 皆飛び乗れ!」
その音を聞いては、ただ見守っていただけの大人三人からも声が零れる。慌てて駆け出していく二人とティキ達。その際咄嗟にティキに手を握られた事で、否応無しに私の身体が動き、更に握ったままだったイーズも連鎖の如く動いていく。
ティキ、私、イーズ。腕を引っ張り引っ張られ、列車へと乗り込む三人。端から見ると少々凄い光景だったかもしれないけど、とりあえず列車に乗れたから結果オーライって奴かな。
「ふぃー、危なかった」
「最初から列車の中で話しときゃよかったなぁ」
「二人共大丈夫か?」
「うん。途中でちょっと転びかけたけど」
途中、危なく足が縺れかけてしまったけれど、イーズが咄嗟に手を牽いてくれたお陰で転ぶ事はなかった。
その事に対して改めてお礼を告げると、コクンと顔を頷かせるイーズ。頷いてくれる仕草は可愛いんだけど、ちょっと複雑な気分だ。私の方が上なんだから、本当は私が先導する筈だったのになぁ……。
でも列車に乗るのがこんな大変なん……って、あ、そういえば私列車初めて乗った!
「ティキ、ティキ! 列車の中見て回ってもいい?」
「あ? んーまぁ、この狭い列車なら迷子になる事もないだろ」
でも直ぐに戻ってくるんだぞー。と告げるティキに「はーい!」と言葉を返しつつ、体を反転させる。
今の気持ちを言葉にするとしたら、まさに"ワクワク"。早く探検をしたくて、皆が座席に座るよりも早く通路を進もうとした。――けれど、脚を踏み出すより先に、くいっと腕の裾を引っ張られた。
「ん?」
何所かに引っ掛けたのかと思い、視線を背後へと向ける。と、私の服の裾を引っ張っていたのは。
「ボクも」
聞こえてきた声はくぐもってさえいたけれど、確かに少年の――イーズの声。初めて聞いただけでなく、確かに私へと向けられ声に思わずポカンとした表情を浮かべてしまう。
でも、それも一瞬の事で。
「――うん! 一緒にいこ」
直ぐに"ボクも行きたい"と言う意味なのだと理解しては、一度離した手を再びイーズへと差し出した。
そんな私を前に、今度はイーズがキョトンとした表情を浮かべていたけれど、やっぱりそれも一瞬の事で、次の瞬間には躊躇いなく手を握り返してくれた。
どうやら、完全に打ち解けてくれたみたいだ。
「ふふっ」
それが嬉しくてつい声を出して笑ってしまうと、イーズもまたふんわりと笑顔を見せてくれる。
世界で二番目のお友達。アレン以来友達を作る機会が無かったから、凄く嬉しい。
ティキについてきて良かった!
「――スゲェな。あのイーズがもう懐いてるぞ」
「なぁティキくん。もしかして最大の恋敵はイーズくんじゃないかね?」
「あああ相手はまだ、ここここ子供だぜ」
「その割には動揺しまくってんじゃねぇか」
「まぁ振られても自棄酒には付き合ってやるからさ」
「や。縁起でもない事言わねぇでくれる? マジで……」