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「ただ――おやすみなさい」
ただいま。と、口だけは形を描くものの、言い終わる前にクルリと身体を反転させる。まるで何事も無かったように廊下を戻ろうした。――が、当然そうは問屋がおろさないわけで。
「おかえりなさイvv」
「随分遅かったな」
イヴが動くよりも先に、目の前にシルクハットを被った般若……もとい、心なしか普段よりも深い笑みを浮かべている長が、後方には「にっこり」と笑みを浮かべている保護者が立ちはだかった。万事休す。そんな言葉がイヴの脳裏を横切ったのは言うまでも無い。
「大まかな話はロードから聞いてますヨv 怪我が無い様で何よりでスv」
「つか、コイツと離れたらダメだろ。何の為の護衛ゴーレムだよ」
「あ、ファファ――あだっ!」
ティキの周りをフワフワと銀色の蝶が浮いていたかと思えば、突然イヴへと突進……もとい擦り寄ってくるソレ。何か忘れているとは思っていたが、どうやらファファラの事だったようだ。
ちなみに共に帰ってきたジャスデビは、屋敷につくなり早々と退避している。恐らくこうなる事が分かっていたのだろう。せめて一言ぐらいは欲しかった。逃走的な意味で。
「ロードにハそれなりの反省をして貰いまスv 勿論イヴにモv」
「えっ!」
「皆を心配させたんだから文句ねぇよな」
驚きと不満の声をあげるイヴに対し、自棄に清清しい笑みを浮かべる保護者事ティキ。その笑みには確かな威圧が込められており、当然イヴの首は縦へと動く事しかできなかった。
どうやらジャスデビが言っていた通り、家族総出で探していたのだろう。
千年公の背後にルルやスキンの姿を確認しては、少々後ろめたさも込みあがってくる。――が、それでも「ティキやジャスデビは何日も音信不通な事があるのに、何故自分だけ」と、理不尽な気持ちを抱いてしまうのも事実。
"親の心子知らず"とは、よく言ったものである。
「そ、それで……その反省って?」
もし許可を取り下げられるようなら、家出でもしてやろうか。等とこっそり、でも本気で考えていたイヴ。――だが。
「ティキぽんと一緒にエクソシストを一人、殺しに行ってきて下さイv」
予想外とも言える返答に、思わずきょとんとした表情を浮かべてしまったのだった。