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「千年公、連れてきたよぉ♪」
バタバタと走る音が聞こえたかと思えば、数秒と立たずしてダイニングへと駆け込んでくるロード。
「ご苦労様デスv」
「う……っ!」
彼女を追っていたイヴもまた滑り込んでいく。……のかと思いきや、中から聞こえてきた長の声にピタリと両足を揃えてしまった。
つい怒りに任せてここまで来てしまったが、やはりこの格好では些か抵抗がある。ここまで来て引き返すというのも癪な事は癪だが。
「や、やっぱりせめて上に何か――」
しかし、親しき仲にも礼儀あり。こんな下着のような格好で食事会に参加するのは無礼だ、と理由をつけては一歩背後へ後退した。――所で、トンと背中から小さな衝撃が伝わってきた。
「ん?」
――廊下の中央なのに、壁?
そう不自然に思っては、顔を背後へと向ける。するとそこにあったのは、いや、いたのは……
「なんだ、随分色っぽい女性がいると思ったらイヴじゃん」
「ティ、ティキ……」
イヴや家族達同様に正装をし、比較的長い髪を後ろで纏めている背の高い男だった。しかも、なんだか自棄に整った顔が破綻している気がする。そう、まるで先程のロードのように「ニヤリ」と笑っているような気さえ……。
「よく似合いですよ? お姫様」
「だあああ! 言ってる事とやってる事が違うーっ!!」
どうやら"気がする"のではなく、実際同じような笑みを浮かべていたらしい。それも悪戯を企む子供のような笑顔を。
もっとも、男は既に子供という年齢ではなく、更に悪戯の内容もロードより過激……というか、最早セクハラである。
何せ逃げようとするイヴを背後から抱きしめて拘束し、もう片手で肩のストラップを外そうとしているのだから。それでいて、イヴが暴れれば暴れる程笑いながら行動をエスカレートさせる鬼畜っぷり。全く持って性質が悪い。
「離せッ、変態ィィ!」
「またまた。嬉しい癖に」
ジタバタと暴れつつ文句を告げるイヴに対し、サラリと受け流しながら抱きしめるティキ。傍から見ればバカップルさながら……否、まさにバッカプルにしかみえないだろう。――ともなれば。
―ヒュッ
「おっと」
「ヒィ!?」
突如風を切るような音が聞こえたかと思えば、二人を……いや、男事ティキを狙って銀色の何かが飛んできた。それも一回ではなく計四回程。
「ンだよ、ティッキー。一本ぐらい刺されよなぁ」
「一本と言わズ、全部でもいいですヨv」
「つべこべ言わず死ね」
「主、抹殺許可を」
最後に容赦の無い言葉がダイニングから投げつけられる。どうやらこの場にいる家族達全員が同じ行動――物を投げつけていたらしい。
ともなればティキからは「あのなぁ」と呆れ声が零れ、巻き添えを食らったイヴは、ティキの背後に刺さっている銀色の物……フォークやナイフ。あまつスプーンや燭台まで"刺さっている"事に驚愕していたのだった。
もっとも、ティキとて彼等と同じ立場だったなら同じ事を――いや、物を投げるなんて事はせず、殴りかかっていたかもしれない。ソレを考えると、これだけで済んだのだから、ある意味運が良かったのかどうなのか。
「さ、イヴv こちらへどうゾv」
そんな事を思っている男を他所に、家長であるシルクハットの男がイヴへと手を差し出す。
食事会や行事にて差し出された手を、それも最上階級からの手を断るのはマナー違反。即ち家長に怒られるという事。
こうなってしまった以上、着替えは勿論、羽織るものさえとりに行けない事に、イヴの口から小さく落胆の嘆息が零れたのだった。