そこはまるで寂れた廃墟のようだった。薄暗く静まり返った通路。ヒンヤリとした空気は、この世の者では無い何かが好みそうな程に冷気を纏っている。――もっとも、実態がある"この世のものではない"ものなら、実際に俳諧しているが。
「ねぇ、ロード」
「ん〜?」
そんな寂れた廊下を、二人の少女が歩いていた。白銀の髪をしたビスクドールのような少女と、黒に近い褐色の肌をしたやはり可愛らしい少年のような少女。
最初に声をあげたのは、そのビスクドールのほうだった。
「他に服ない? これちょっと……」
「そんな事無いってぇ♪ イヴはコレくらいの方がすぅごぉぉく似合ってるよぉ!」
繋いでいる手を大きく振りながら返答する褐色の少女事ロード。
ニッコリと笑う今の彼女には、普段見え隠れしている凶暴性は見当たらない。どうやら珍しく上機嫌なのだろう。
まさに外見相応の少女らしい笑みと、お世辞を言う性格ではない彼女からの褒め言葉。その二つを前に、サッとイヴと呼ばれた少女の頬が赤く染まった。
「う、うーん……でも」
そう言われて嬉しくない訳ではない。が、それでも、どうにもロードとの気温差が有りすぎる気がしてならない。
というのも少女二人は盛装しており、ロードの黒いシックなリボン付きワンピースに対し、イヴはフォーマル用のベビードールドレス。
ロードは持ち前の少女らしさを引き立たせており、実に可愛らしい。……のだが、自分は少々場違いな気がしてならない。大体何故ミニカクテルドレスなのか。ロードと同じワンピースでいいじゃないか。と言うか、布の面積が著しく少な過ぎやしないか。
「――やっぱり着替えてくる!」
不満に不満が募り、やがて耐え切れなくなったかのようにクルリと踵を返すイヴ。だが、勢いよく反転したのが災いしたのか、その面積の少ない布地がフワリと浮きあがった。それと同時にニヤリと変化を見せたのは、言わずもがなロードの口許。
「勿体なーい。生脚とかちょぉせくしぃなのにー♪」
「ぎゃああッ!!」
それはまさに悪戯を企む子供の顔であり、その悪戯は直ぐに決行された。
イヴが一歩前へと踏み出すよりも先に、ピラリと持ち上げられるドレスの裾。この場合は「スカート捲り」という名称でいいのか、それとも「ドレス捲り」というべきなのか。どちらにしてもその直後、少女らしからぬ悲鳴が響き渡たったのは確かである。
「ロ、ロードッ!」
顔を真っ赤に染め、怒りに震えた声で少女の名前を呼ぶイヴ。同時に身体を振り返らせる。が、悪戯常習犯であるロードが易々と捕まる筈もなく。
「へへ〜♪」
「待ちなさいっ!」
廊下をパタパタと走っていくロードに、イヴもまた静かな廊下を疾走していったのだった。
勿論、服の事等すっかり忘れて。