鳥檻のセレナーデ

□9幕.ノアの箱入り娘
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9★ノア_


こはまるで寂れた廃墟のようだった。薄暗く静まり返った通路。ヒンヤリとした空気は、この世の者では無い何かが好みそうな程に冷気を纏っている。――もっとも、実態がある"この世のものではない"ものなら、実際に俳諧しているが。


「ねぇ、ロード」

「ん〜?」


そんな寂れた廊下を、二人の少女が歩いていた。白銀の髪をしたビスクドールのような少女と、黒に近い褐色かちいろの肌をしたやはり可愛らしい少年のような少女。
最初に声をあげたのは、そのビスクドールのほうだった。


「他に服ない? これちょっと……」

「そんな事無いってぇ♪ イヴはコレくらいの方がすぅごぉぉく似合ってるよぉ!」


繋いでいる手を大きく振りながら返答する褐色の少女事ロード。
ニッコリと笑う今の彼女には、普段見え隠れしている凶暴性は見当たらない。どうやら珍しく上機嫌なのだろう。
まさに外見相応の少女らしい笑みと、お世辞を言う性格ではない彼女からの褒め言葉。その二つを前に、サッとイヴと呼ばれた少女の頬が赤く染まった。


「う、うーん……でも」


そう言われて嬉しくない訳ではない。が、それでも、どうにもロードとの気温差が有りすぎる気がしてならない。

というのも少女二人は盛装しており、ロードの黒いシックなリボン付きワンピースに対し、イヴはフォーマル用のベビードールドレス。
ロードは持ち前の少女らしさを引き立たせており、実に可愛らしい。……のだが、自分は少々場違いな気がしてならない。大体何故ミニカクテルドレスなのか。ロードと同じワンピースでいいじゃないか。と言うか、布の面積が著しく少な過ぎやしないか。


「――やっぱり着替えてくる!」


不満に不満が募り、やがて耐え切れなくなったかのようにクルリと踵を返すイヴ。だが、勢いよく反転したのが災いしたのか、その面積の少ない布地がフワリと浮きあがった。それと同時にニヤリと変化を見せたのは、言わずもがなロードの口許。


「勿体なーい。生脚とかちょぉせくしぃなのにー♪」

「ぎゃああッ!!」


それはまさに悪戯を企む子供の顔であり、その悪戯は直ぐに決行された。
イヴが一歩前へと踏み出すよりも先に、ピラリと持ち上げられるドレスの裾。この場合は「スカート捲り」という名称でいいのか、それとも「ドレス捲り」というべきなのか。どちらにしてもその直後、少女らしからぬ悲鳴が響き渡たったのは確かである。


「ロ、ロードッ!」


顔を真っ赤に染め、怒りに震えた声で少女の名前を呼ぶイヴ。同時に身体を振り返らせる。が、悪戯常習犯であるロードが易々と捕まる筈もなく。


「へへ〜♪」

「待ちなさいっ!」


廊下をパタパタと走っていくロードに、イヴもまた静かな廊下を疾走していったのだった。
勿論、服の事等すっかり忘れて。



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