鳥檻のセレナーデ

□4幕.Dream and Memory
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D r e a m a n d M e m o r y_


□ SiDE:Allen □



その日は、朝から色々と大変だった。

初めてのエクソシストとしての朝。
初めての教団の食堂。
初めての教団員達との触れ合い。
初めての騒動に、初めての殺意……は、初めてでもないか。

ともかく、僕のエクソシストとしてのスタートは色濃かった。食堂へ行こうとして軽く迷子になり、到着したらしたで目つきの悪い人と口論。それを過ぎて漸く食事が取れる、と思った瞬間に、任務の呼び出しが掛かってしまった。
せめて朝食ぐらいはゆっくり食べたかった……なんて、ちょっと贅沢かな。

そんな訳で急いで朝食を取っては任務を聞きに行ったんだけど、そこでまた新たな"不運"が発生した。僕のエクソシストとしての初任務。そこでパートナーとなったのが、食堂であった目つきの悪い人。……確か、神田、だったかな。との事で、物凄く憂鬱だった。

向こうも僕の事をあからさまな程に嫌ってるし、師匠的に言えば"幸先が良い"。一般的に言えば"先が思いやられる"、って言う心境だ。

もっとも、だからと言って任務にわがままが通用する筈もなく。結局僕と神田、そしてファインダーのトマさんの三人で、任務地であるマテールへと向かう事となった。



――古代都市マテール。
またの名を、神に見放された都市。

資料によると、街の二つ名は劣悪な土地への皮肉が込められているらしい。元々降水量が低い為に、旱魃かんばつしやすい荒廃した土地だったのだろう。そこに暮らす人々は苦惨な生活から逃れる為に「人形」という物を作るようになった……と、記載されていた。

人間を楽しませる為に歌い。
人間を喜ばせる為だけに踊る。
人を象った「もの」。

しかし、どんなに人形達が頑張ったとしても、人間の暮らしが変わる訳ではない。劣悪に耐えられなくなった人間達は何時しか一人、また一人と街を捨てていってしまった。彼らを励ます為に生まれた人形を置いて……。

神田が言うには、その人形の一つにイノセンスが関係している"可能性"があるらしい。そうでなければ500年も動いている筈がないと。


――もし、それが本当なら……。


500年間、その人形は一体どんな気持ちだったのだろう。どんな想いで、何を考え、何を見てきたのだろう。

……いや、感情等持っていない事を願うしかない。人間の居ない、まさに"見放された街"で、今も一人。人を喜ばす為に歌い、踊っているのかと思うと、とても心が痛む。

人間の欲で作られ。
人間の勝手で捨てられ。
人間の為に殺される。

終わらせてあげたいと思う。でも、人間ぼくらにそんな権利があるのだろうか……。


「――おい、お前」


寂れた街を眼前に考え耽っていると、ふと隣から声が聞こえてきた。共に来たエクソシスト――神田だ。


「始まる前にいっておく。お前が敵に殺されそうになっても、任務遂行の邪魔だと判断したら俺はお前を見殺しにするぜ」


それはつまり、僕よりも任務を優先する。僕を助けるつもりはない。と言う意味なのだろう。


「戦争に犠牲はつきものだからな。変な仲間意識を持つな」


きっぱりと言い捨てる神田だけど、その顔は心なしか先程よりも険しい気がした。
恐らく、神田はそう思って割り切っているんだろう。仲間の死を「戦争だから」という理由で無理矢理納得させ、悲しみを増加させないように仲間と群れる事を嫌う。


「……嫌な言い方」


ポツリと、僕の口から言葉が零れた。

そう考えてしまうのも、確かに無理はないかもしれない。自分を守るにはその考えが一番なのかもしれない。でも、だからといって、僕はその考えに賛同もしなければ従う事もできなかった。――いや、したくなかった。

僕には「割り切る」なんて器用な事はできないし、仲間との記憶を、大切な人との記憶までを、亡くしてしまいたくはないから――……。



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