鳥檻のセレナーデ
□34幕.過去を知る者
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未 知 な る 能 力_
「俺が知ってる訳ないだろ、お前の体の事なんだから」
「むぐ……確かに」
「俺が知ってるのは、お前を抱きしめると傷が治るって事ぐらい」
「抱きしめる、ねぇ……」
その言葉を聞いた途端、ふと以前出会った男の人が脳裏を横切った。
ティキを追って、一人夜道を走っていた時に会った黒い長髪の人。アクマと戦っていた、エクソシストの一人。
多分彼は、私が"ノア"だと言う事を知らなかったんだろう。
だから、咄嗟とは言え守ってくれたに違いない。……だから私も、敵であるあの人を庇ってしまったんだ。
何も知らずに守ってくれたから、そのお礼に。私のせいで大怪我を負わせてしまったから、そのお詫びとして。
――でもあの時、何であの人の事を抱きしめたんだろう。
何故かは分らないけれど、倒れたあの人を見たら凄く悲しくなった。凄く心が痛くなって……気が付いたら、気を失っているあの人の身体を抱きしめていた。
一体何故あんな行動をしてしまったのか。何故あんなに悲しくなったのか。……その理由は、今でも分からない。
ただ、何時の間にか男の人の傷が綺麗に消えていたのを覚えている。それこそ、大きな傷から小さな傷まで。
(もしかして、あれも私が……?)
だとすれば"私の体"が、何かを覚えていたのだろうか。傷が治ると知っていた上で、彼を助けようと体が動いていた……?
「イヴ?」
「! あ、何でもない……」
――まさか、ね。
私はただの人間。ティキや皆のような力を持っていないと、千年公が言っていた。きっと今のだって、私を慰めようとティキが一芝居打ってくれたのかもしれない。
「はぁ……。せめてジャスデビみたいに武器とかあれば、千年公も許可してくれるのかな」
「そりゃ無理だな。寧ろ没収されんじゃね?」
「デスヨネー。――と言うか、いつまで抱きついてんの!」
私がもの耽っているのを良い事に、必要以上にベタベタ……髪や肩に顔を埋めるティキ。最早セクハラ以外の何者でもない。
女の敵! と、言わんばかりにガツンッと肘鉄を食らわしてやれば、背後から小さな悲鳴が聞こえてきた。
……ちょっと力入れすぎたかも。ま、まぁ自業自得、因果応報ナノデス。