鳥檻のセレナーデ

□34幕.過去を知る者
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35★能力
回 SiDE:イヴ 回



っと思っていた。このまま皆に守られっぱなしではダメだって。
例え家族のような力を持っていなくとも、特別な力をもっていなくとも、何か皆の役に立てる事があるんじゃないかって。
――だから。



「だから戦闘許可を下さ」

『ダメでスv』



そう懇願した所で、コンマ一秒。まして通信機となっているファファラから後ずさってしまう程、恐ろしい声で断られてしまいました。



† † †



日本に来てから数日。最初こそ勝手がわからない物に混乱していたけれど、今では大分慣れたと思う。……流石に電話が無い事には驚いたけど。



「んなにむくれるなって。可愛い顔が台無しだぜ?」

「可愛くなくていい」



そんな江戸の町を、ムスッと顔を顰めながら歩いていく。
隣を歩くティキが肩を竦めているのが見えるけど、私だって好きで怒っている訳ではない。
千年公が一言「いいですヨv」って言ってくれれば、直ぐにでも機嫌を治す事ができる。つまり千年公が悪いのだ、うん。……なんて、流石に本人の前ではいえないけど。



「ま、俺も千年公の意見に賛成だけどな」

「なんで? 私だって戦える!」



ティキの言葉に更に眼つきを鋭くさせて、小さく声を荒げる。

確かに皆のような力はないけれど、でも何もしないままでは居たくない。まして近々戦争が始まる。人とアクマ。エクソシストとノアの戦い。皆が戦っているのをただ隣で見ているだけだなんて、これほど歯がゆい事はないだろう。

だかこそ、つい先日見たアレンの夢のように、自分から一歩踏み出さなければいけない。皆を守る為にも、皆の力になる為にも。……そう思って千年公へと直談判したと言うのに、結果は言わずもがな『NO』。理不尽だ。納得が行かない。
従順でお飾りだけの"お姫様"が欲しのなら、別の人に当たってって大声で叫びたい。



「お前の気持ちも分からなくもねぇけどさ。けど、お前は自分が思ってるよりずっと家族の為になってる事」

「……どこが?」



むくれる、と言うよりも、落ち込んだ表情で、隣のティキを見上げる。私の表情に気がついたのか、ティキは微苦笑を浮かべて頭を撫でてくれた。



「ロード見てみろよ。何かとお前にばっか引っ付いているし、それに双子やルル、ましてあのスキンだってお前には心開いてるだろ。何も力がありゃいいってもんじゃねぇの」

「……ティキが珍しい事いってる。明日は大雨かなぁ」

「おまえね……人が折角慰めてやってんのに。――あ、それともこっちで慰めてほしい?」

「ギャァアァッ!?」



そう告げるや否や、突然ぎゅーっと強く抱きしめられた。
予期していなかった事で思わず大きな悲鳴……というより奇声をあげてしまう。こう言う事に関してティキは本当に俊敏だと思う。それも無駄な程に。



「ああ、それにもう一つ。お前が役に立ってる理由があったわ」



抱きつくなー! と、ジタバタと暴れるものの、ティキの手が離れる気配はない。寧ろ絶対笑ってる。私の位置では顔も見えないけど、腹立たしい程の笑みに違いない。
いっそ噛み付いてやろうかと思っている。――と、突然ジュッと言う点火音が聞こえてきた。



「ひっ?」



それは悲鳴だったのか、名称だったのか、実際自分でもよく分からない。でも、突然顔の近くでマッチを点火させられたら、誰だってびっくりすると思う。まして真意も意図も分らないのだから、身体が飛び跳ねるのだって自然な反応の筈だ。

ま、まままままさか。それで私を燃やそうと言うんじゃ……!?
思わず「ただ暴れただけじゃん!」と声を荒げようとした。――所で、何を思っているのか、ティキの手が点火したままのマッチを握り締めた。



「ティキ!? なにして……っ!」

「へーきへーき」



幾ら小さなマッチとは言え、発火点はそれなりに高い。それを握るとなれば火傷を負うのは当然の事。
よく本に小火を手で消す表現があるけど、実際にやったら掌は火傷だらけに違いない。

そんな事を思いつつティキの手を引き寄せるも、頭上から降ってきた声は普段通りに落ち着いてた。
一体何を考えているんだと、眉を顰めながらも握っていた手を開かせる。
手にはやはりと言うか、軽度の火傷を負っていた。水脹れになっていないのが幸いと言うべきか。



「ほら、治ってきた」

「……え?」



それでも火傷は火傷。早く水で冷やさないと、と周囲に視線を向けている。――と、再びティキの声が頭上から降ってきた。
言葉に釣られるように手へと視線を向ければ、不思議な事に火傷が徐々に薄くなっていくのが分る。
一瞬とまでは行かなかったけど、それでも物の数秒で火傷は消えてしまった。何コレ、手品?



「火に仕掛けがあったの?」

「仕掛けなんてねぇって。寧ろこっちが聞きたいぐらい」

「へ?」

「これ、お前が治したんだよ」

「……………はい?」



あれ、なんか言葉が噛みあってないような……。 空耳かな? それとも聞き間違い?



「自分じゃ気がついてないみたいだけど、結構前からあったぜ?」

「………うそん?」



思わずそう尋ねると、「嘘ついてどーすんだよ」ってケラケラとした笑い声が聞こえてきた。

いや、だって怪我が治ったんですよ? それも物の数秒で。突然これがお前の力とか言われても、からかっているとしか思えないんですけど? 大体この間転んで膝擦り剥いたけど、数秒で治ったりしませんでしたよ。普通に数時間ぐらいかかりましたよ。



「や、普通数時間で治ったりもしねぇよ」

「まじすか。普通だと思ってた」

「幾ら俺等だって二、三日掛かるわ。直ぐに治るのはお前だけ」

「えぇ?! で、でも……どうやってティキの怪我まで治したの?」



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