鳥檻のセレナーデ

□34幕.過去を知る者
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過 去 を る 者_

「――ん?」



床に散乱しているファイルへと視線が向いたのは、そんな時だった。
先程幾つかかき集めたものの、床には未だに複数の資料が散乱している。その中の一つ、他のものよりも一回り小さな写真へと、唐突にピントが合わさった。


――多分これも、リナリーの写真なんだろうな。


これ以上バクさんを刺激しない為にも、見なかった事にして元に戻しておこうと手を伸ばす。――と。



「あれ――イヴ……?」

「!? そ、それにさわ――うぉぉあっ!!」



写真を手に持った瞬間、思わず瞳を見開いてしまった。それに気がついたバクさんが咄嗟にふんだくろうとする。……けれど、その前に僕の身体が回避行動を取っては、空振りした挙句にベシャリと床へと倒れ込んでいた。
もっとも、そんな彼を気にする事なく写真を凝視する僕。



「やっぱりイヴだ……!」



写真に写っているのは二人の少女。一人はリナリーで、もう一人は確かにイヴだった。
でも僕の知っているイヴとはちょっと違う。今よりも髪が短いし、何より教団服を着ている。僕等と同じ、エクソシストである証の黒いコート。
だからなのか、先日会った時とも、また夢の中の彼女とも何所となく雰囲気が違って見えた。
恐らくこの彼女こそが、皆の言う『イヴ』なんだろう。――それでも。



「か、わいい……」



ついそんな言葉を零してしまっては、薄っすらと頬に熱が篭っていくのが分かる。

今まで何度か顔をあわせた事はあったけど、こうして改めてみるとやっぱり可愛い。一緒に映っているリナリーも可愛いけれど、彼女とはまた違った可愛さがある。教団服もよく似合っているし。
何よりカメラに気がついていないのか、今にも動きだしそうなワンシーンなのが良い。


――この写真、ちょっと欲しいかも……。


こっそり貰っちゃおうかな。なんて考えていると、突然ガシッと脚を捕まれた感覚を感じる。



「か〜え〜せぇぇええ!!」

「うわあああっ!?」



咄嗟に視線を向けると、バクさんがまるで死人のような風貌で僕の足首を掴んでいた。口許には先程の吐血の後が残っていて、顔色は蒼白というより土色。
あまりの恐ろしさに思わず悲鳴を上げ、つい持っていた写真すら手放してしまう。



「……はぁぁあ」



写真が宙に舞った瞬間、驚く程俊敏な動きでキャッチするバクさん。自分の手へと戻ってきた事に安堵しているのか、同時に深い溜息を落としていた。
しっかりと大切そうに握り締めるその姿に、僕は再びきょとんとした表情を浮かべる。


――そうえいば、リナリーとイヴって仲が良いんだよな。


今の写真からしても、まるで姉妹か親友のようだった。リナリー自身、本当の姉の様に慕っているとも言っていたし。……とすると、リナリーを撮った時にイヴが入り込んでしまう事も……?

そう思うが早いか、ぽんっとバクさんの肩を叩き。



「……ん? ヒッ!?」

「イヴの写真、他にもありますよね?」










その時の僕の表情は、まさに般若のようだったと、後々バクさんが怯えながら言っていた。


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