鳥檻のセレナーデ
□34幕.過去を知る者
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過 去 を 知 る 者_
「――ん……」
――ふと、沈んでいた意識が戻ってくる感覚を感じた。
それと同時にパチリと開く瞼。瞳こそ見開くようにして開いたけれど、直ぐに周りの状況を把握する事はできなかった。
今居る場所もまた、見た事のない部屋だったから。……いや、見た事の無い物だらけ、といった方が正しいかもしれない。もしかしたら、まだ夢の中にいるのかな。
「……頭、いた」
そんな事を思いつつ、横たわっていた身体を起させる。自棄に体と頭が重い。と言うより、ズキズキと痛みすら発している。
前にも感じた事のある頭痛。でも以前より確実に酷いソレ。……もしかして風邪でも引いたのかな。
こんな時期に……と、自分の額へと手を伸ばしていると、不意に小さな音が聞こえた。何かが滑るような音。それと共に壁の一部が横へとスライドする。どうやら其処が扉だったらしい。
「よ。随分起きるの遅かったな」
「ティキ……。今、何時……?」
扉……どうやら"ふすま"というらしい。ソレが開いたかと思えば、外から現れたのはワイシャツ姿のティキだった。
煙草を咥えながら告げるティキを一瞥しては、部屋の中へと視線を向ける。
時計とかないかな……って、なんだろコレ。水が入った桶に針が浮いてる。それに壁に掛けられてるの……文字? それとも黒いミミズの絵?
「……ここ、何所?」
「ん? ああ、昨日移動途中で眠っちまったんだよな。ここは日本っていう国だよ」
「日本?」
って言うと、あの鎖国してる日本? そっか……それで見た事のない物が沢山あるんだ。
「千年公や他の奴等も、元帥殺しやなんやらでこっちに来てるらしいぜ」
「皆も?」
「ま、ルルとシェリル以外だけど。何か大掛かりな事が進んでるんだってさ」
言葉と共に中へと入ってきては、私の隣に座るティキ。その姿を視界に入れつつも、「そっか」と立てた両膝に顔を乗せる。
大掛かりな事。――多分、前から言っていた"戦争"が始まるんだろう。
アクマと人間達の戦い。
世界を終焉へと導く戦い。
だとしたら私も、このままじゃいけない、よね。
「とにかく飯にしようぜ。腹減ったし」
「飯って……それ?」
悩んでいる私に気がついたのか、それとも唯の偶然だったのか、スッとティキの片手が上へと持ち上げられる。
その手にはトレイが握られていて、更に上に乗っているは……。
「前約束しただろ。生魚食わせてやるって」
「……でもソレ、明らかに魚の頭だよね」
綺麗に捌かれてはいるけど、それでも魚の頭がそのまま乗っているのはちょっと……。というか、な、なんか睨まれてる気がする。魚に。
「わ、私はいいや……千年公に怒られそうだし」
「大丈夫だって、内緒にしとくから」
「でも……」
「物は試しに食ってみろよ」
「いいってば!」
首を横に振りつつ身体を引かせる私に対し、ずいっと身を乗り出してくるティキ。しかも笑顔だ。何だか物凄く腹立たしい程に笑顔だ。
「そ、そんなに美味しいならティキが食べたら!」
「俺はたまに食べてるからさ。やっぱ美味いもんは分かち合いたいじゃん?」
「なにそのティキらしくない台詞!? もしかして楽しんでない?」
「ないない。ほら、遠慮すんなって」
「いや、遠慮じゃなくて……!」
「あ、何? それとも口移しで食べさせてほしいとか? ヤラシー」
「なっ、なんでそんな発想になっ」
「隙ありっ」
「――――ッッ!?」
……太陽が最も頭上高くに光り輝く時間帯。わりかし静かな江戸に……もとい、部屋の中に声にならない悲鳴が響いたのでした。