鳥檻のセレナーデ

□34幕.過去を知る者
22ページ/28ページ

40★

わ〜、惚れるね千年公」



一瞬にして夜よりも深い漆黒に包まれた江戸。その上空で感嘆の声を零したのは、千年公に言われるまま上空へと避難したティキだった。



「江戸がスッカラカンだよ、怖え〜」



目の当たりにした力の差に珍しく萎縮し、ただ苦笑を浮かべる。いや、苦笑しか浮かべられなかった、というべきだろうか。

何せ、ティキが告げた言葉は比喩ではない。
千年公が作りだした闇。それに包まれた江戸は、一瞬で"無"へと帰した。人も、建物も、江戸という町でさえ、今や虚無と言う更地へと変貌している。



「って、イヴ、大丈夫だよな」

「無論v 恐らく何処かに……ックシュッ!」



心配気な表情で更地を見回すティキに対し、躊躇いもなく断言する千年公。何故其処まで言い切れるのかと不思議にすら思ったが、どうやら聞ける雰囲気ではなさそうだ。別に怒っているとかではなく、連発するクシャミが邪魔をしている。

傘のレロが「イヴたまの風邪を貰ったんじゃ?」と心配するやり取りを背後に、ティキはそのイヴを探し、目を皿にしていた。綺麗さっぱり無くなった事で、探し易い事は探し易い。



「あ、エクソシストみっけ」



そういう面では良い結果だが、だったらここまでやらなければよかったんじゃ……。なんて事を思いつつ周囲を見渡していると、数人の人影が視界へと入った。
ふら付く足取りの者が二、三人。辛うじて唸り声を上げている者が数人。形が残っているだけでなく、よく息をしているものだと、先程とは別の意味で感嘆の声を零すティキった。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ