鳥檻のセレナーデ

□34幕.過去を知る者
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E x o r c i s t_
武器を構えて踏み込んできた二人のエクソシスト。その光景に真っ先に反応を示したのは、少女を抱えている男だった。



「千年公、俺が行く」

「え、ちょ……っ!?」



言葉が先か、行動が先か。一言告げた頃には既にティキの姿はなく、また彼に抱えられているイヴも半ば強制的"道連れ"にされていた。――何で私までぇぇ!? という叫び声が聞こえたような気もしたが、恐らく空耳か気のせいだろう。
イヴがその言葉を告げようとした時には、既に鈍い音が空気を震わせていたのだから。



「――お前……っ!」



飛び込んできた二人の攻撃を軽くなしては、すれ違うように屋根上へと着地する。それと同時に、エクソシスト二人も隣の民家へと降り立っていた。



「よぉ、あん時の旦那と眼帯くんじゃねぇか」



口許に笑みを浮かべ、飄々とした声色で二人へと身体を向ける。その途端、二人の内の一人、赤髪の青年の顔が一瞬で怒りへと染まった。



「忘れねぇぞ、その面!!」



イノセンスを握り締めたのと同時に、ギリッと強く歯を噛み締める。
今、彼の脳裏に浮かんでいるのは、忘れる事のできない記憶の一つ。仲間であり友人でもある少年を殺した男の顔。それが今目の前にあるのだ。



「今ちょっと暇だからさ、また相手してよ」

「……上等だ。このホクロは俺が戦る。誰も手ぇ出すなさ!」



今の青年は、彼らしく無い程に感情を露にしていた。明確な程の怒気と殺意。常人ならばそれだけで怯んでしまうかもしれない。が、対峙している男は違った。



「ボッコボコにしてやんねェと気がおさまんねェ」

「何? イカサマ少年殺した事そんなに怒ってるの?」



青年が怒れば怒る程に深まっていく笑み。向けられる殺意ですら、今のティキには心地がいい。――もっと怒れ、もっと憎め。人は怒れば怒る程に力を引き出す事ができる。
久しぶりに張り合いの有りそうな奴と出会えたのだ。精々楽しませて貰わなければ。



「あー友達だったんだ。もしかしてそこの可愛い娘もイカサマ少年の友達?」

「……うるせぇ」

「ごめんな、悲しいよな、分かるよ。俺にもいるからさ、友達?」

「うるせェェ!!」



明らかな挑発に対し、青年は怒声を荒げる。頭に血が上っているというのは、こう言う事を言うのだろう。それを確認した事でティキは更に笑みを深め、また突如、抱えている少女の額へと軽く口付けた。

思いがけない行動だっただけに、思わずビクリと少女の身体が震える。フードを目許まで被っている為表情を読む事はできないが、あの人物は一体なんなのだろう。ティキの真意を掴む事ができず、青年は益々顔を顰めていた。



「でもさ。結局、殺せてないらしいんだよね。少年も――少女も」

「何……!?」

「!」



少女という言葉に今度は青年が反応を示し、また少年という言葉にイヴから反応が現れる。

少年。恐らくアレンの事を言っているのだろう。殺せていないという事は、まだ生きているという事。また彼に会えるかもしれないという事。


――嬉しい。


言葉にこそしなかったものの、イヴの中には、確かにその想いがあった。



「アレン=ウォーカーには使いを出したから、もうじきくるんじゃねぇの? ちなみに、少女の方はもうお前等の前にいるけど」

「どう、いう……っ!」」



青年の言葉に返答する事なく、クスリと笑うティキ。少女の気持ちこそ読み取りはしなかったものの、青年の気持ちは簡単に見破る事ができた。

萎える事のない怒りと殺意。だが、その中に微かに紛れた動揺と希望。敵の言葉等信じられるない、そう気持ちでは分っているのだろう。――だが、心とは裏腹に一瞬だけ周囲へと動く隻眼。槌を握る手には必要以上に力が込められており、内心では心臓が早鐘を打っているに違いない。


――そろそろかな。


明らかに動揺を見せ始めた青年に、ティキの瞳が薄らと細められる。
この後、彼等はどんな反応を見せてくれるのか。どんな絶望の表情を浮かべてくれるのか。期待と愉悦を纏った笑みを零しながら。




「挨拶しとけ――イヴ」


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