鳥檻のセレナーデ

□34幕.過去を知る者
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戦 い の 開 け_
暗く広い廊下。その通路の終点は、大きな部屋となっていた。
小さな屋敷一つ入るのでは、と思う程のに大きな空間。それでも広さを感じないのは、部屋の大半を巨大なパイプオルガンが占領しているからだろう。響く声の主は、それを"ピアノ"と呼んでいる。

そのピアノの上には、大きな人形の顔吊るされていた。恐らく、人の身体よりも大きな東部。一見子供にも初老にも見える顔。女性のようであり、男性のようでもあるソレ。その頭部の一部は抉るように陥没していて、周りの暗闇と相まって更に不気味さを漂わせている。

そんなピアノの前に、声の人物は居た。



「これはノアが大洪水を逃れ、第2人類の祖先を"造り出した"場所。キミ達のオリジナルの故郷なのですかラv ここノアの方舟こそが人類の故郷なのでスv」



以前にも話してあげたでしょウ?v
そう手を小さく広げながら説明する人物に……千年公に、ゾクリと背筋に寒気が走る。

そう――ここは神話とされる"方舟"の中。聖書という本の中でしか存在を知られていない、過去の遺物。
外見は勿論、中身すら舟とは言い難いものだけれど、千年公如く"見た目"は関係ないのだそうだ。



「故郷ね……それが今じゃアクマの生成工場プラントだ」

「人とアクマが実は同郷だなんて笑えるぜ」

「ヒヒ! うける! ヒヒ!!」



薄らとした憐笑を浮かべるティキと、明らかな嘲笑を零すジャスデビ。

確かに、人間とアクマが同じ同郷というのは皮肉だと思う。
人が生まれた場所で、人を殺す為のアクマが造られる。
なら何故、人を生んだりしたのだろう。何故、アクマという物を生み出さなければいけないのだろう。……なんて、考えた所で返答が返って来る筈もないけど。



「ですがもう直この方舟ともお別れしなければなりませン。グッバイ江戸v 来るべきラグナロクの為にv」



言葉を告げつつ、千年公の顔がピアノ上部へと向けられる。私の位置からでは上を向いたようにしか見えなかったけれど、本当はもっと別の所を見つめていたのかもしれない。それこそ、ここではない何処かを。今ではない何時かを。

何となくそう思ったのは、彼の声が何処と無く寂しそうだったから。私の気のせいかもしれないけど、何となく、悲しそうだった。
多分、ティキやジャスデビ達よりもココにいる時間が長いか……あ、やばい。



「新たな資格を持つ舟に乗り換え」

「……くしっ!」

「おヤ?v」

『 あ 』



今まで数度我慢していたものの、今回ばかりは堪えきれずについ零れてしまったクシャミ。しかも小さな声だったにも関わらず、千年公にはバッチリ聞こえていたらしく――。



「もしやイヴ、風邪ですカ?v というかキミ達は仕事もしないで何しに来たんでス?v」

『おう、直球!』



ニッコリと先程までとは違う笑みを浮かべる千年公を前に、一同は声だけでなく表情まで揃ってしまったのだった。
明らかに引き攣った巧笑――作り笑いを。


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