鳥檻のセレナーデ
□34幕.過去を知る者
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魚は食っても鯉は食うな_
「てめっ! 何変なもん食わせようとしてんだっゴルァアッ!!」
「変なもんじゃねぇし、美味いのよコレ」
「鯉なんて絶対食べちゃダメ! あれは食べ物じゃないヒッ!!」
あんなの食べるのはこの男だけだから!! と、私の肩を掴みながら珍しく大声を上げるジャスデロ。普段から顔色は悪いけど、今日はなんだか一層青ざめているような……。――あっ! 私の鯉が何時の間にか生け簀に戻ってる! ああ、勿体無……ごほん。というか、人肌に触れた以上あの鯉は長生きできない筈。
「ヒッ! やっぱりこんなホームレスなんて危険だって! デロ達と一緒の方が安全だよ!」
「へっ。お前がどうしてもっていうなら、連れていってやらなくもないぜ」
「とか言ってるけど本当はデビも」
「変な事言うんじゃねぇ! ジャスデロ!!」
ここはジワジワと死の恐怖を与えず、いっそ一思いに調理してあげるべきではないかね? なんて思っていると、何時の間にか二人が何時もの漫才……もとい言い争をしていた。ああ、騒がしくすると鯉が……! あまり煩くすると怒るよ! ティキが!
「残念だったな双子。イヴは俺と一緒がいいんだってよ」
「双子じゃねぇっつってんだろ! このホームレス!!」
「二人合わせてジャスデビだっ!」
なんて思ったのは私だけだったらしく、怒る所かニヤリと口角を持ち上げるティキ。ちなみに魚の骨付き。
口に骨を咥えて無ければもう少しカッコよかったかもしれないけど、やっぱり凄くシュールだ。……ところで、何の話?
「そういやアンタ、オレの関係者殺して回ってんだろ!? 日本に着たのもそれって聞いてるんですけど〜?」
「あー。ク、クロ……なんだっけ?」
「クロス=マリアン」
「ああ、それそれ」
尋ねてくるティキに返答しては、以前掠め取った……ゴホン。私が預かっている"削除リスト"のカードを取り出す。
ちなみに鯉はスッカリ生け簀の奥へと隠れてしまった。ティキなら捕まえられるだろうけど、不慣れな私だと厳しそうだ。
「――ん?」
お腹すいたなぁ。なんて考えながらも、取り出したカードへと視線を向ける。するとカードの中では住人であり囚人であるセル=ロロンが一生懸命壁の文字をモップで擦っていた。
しかし……ジャスデビ達が来ただけで本当に賑やかになるなぁ。「ホームレスと居るより安全なんだよ!」って、何の話してるんだろ?
「名前がぁ〜、消ぃ〜えないでございまぁ〜す」
「へ?」
チラリと騒いでいる三人へと視線を向けた途端、手元のカードから泣き言のような声が聞こえてきた。周りが騒々しい事もあり、聞き取れなかったと言うかのように再びカードへと視線を向ける。――と。
「アレ〜ン=ウォ〜カ〜。こ〜いつは生ぃ〜きてるぅ〜〜」
「アレンが、生きてる……っ?」
今度はしっかりと聞きとったものの、別の意味で自分の耳を疑ってしまう。同時に彼が擦っている名前を見ては、驚きの余り身体が飛び上がっていた。
彼が擦っていたのは、私も知っている名前。壁に書かれているのは、私の友達だった少年の名前だった。
……でも、彼は確かにティキに殺された筈。生きているとは思えない。
そう声を荒げようとした。――所で。
―ドン
「ヒッ?」
「へ?」
軽い衝撃音と共に、グラリと私の身体が傾いた。どうやら急に立ち上がった事で、背後にいたデロへとぶつかってしまったらしい。
挙句に自分から衝突しておいて、私の方がバランスを崩してしまい――。
「わっわっわ!」
『イヴッ!!』
大きく腕を振り回すものの、結局は無駄な努力。数秒と立たずして、脚をばたつかせて以上の水飛沫と共に池へと落ちてしまったのだった。
な、生臭い上に冷た…………あ、さっきの鯉!
「ジャスデロ、てめぇ……」
「ヒッ!?」
「イヴに何て事してくれんだ、ああ?」
「ヒィッ!?」
ティキの真似をして、そーっと、そーっと……。――えいっ!
『 天 誅 ッ ! 』
「ヒーーー!!」
ティキとデビットの怒声と、デロの悲鳴。
「やった! みてみて、取れた!」
そして私の歓声。
その日、ある意味でこの庭園始まって以来の賑わいを見せたのでした。