鳥檻のセレナーデ

□だきしめたい
1ページ/1ページ




それは、薄暗い道の端にひっそりと咲いていた。


 きし




星が煌く時間帯。田舎とも言える町には弱々しい街灯しかなく、足元を照らしているのは闇夜に浮かぶ満月ぐらいだった。もっとも、その方が"仕事"もやり易く、こうして早めの帰路へとつけているわけだが。

暗い夜道を過ぎ、町の終りが見えた頃。ふと、道の脇へと視線が向いた。
地べたが露出している道、その脇に咲き綻ぶ複数の花。花壇のように手入れをされているわけではなく、ただ野に咲く花が密集したのだろう。それとも、ここを残して他の場所が枯れてしまったのかもしれない。

不意にティキが足を止めたのは、周りの花が暗闇に身を隠しているのに対し、一輪だけ月を見つめている花に気がついたからだった。
色がついている周りの花とは違い、一つだけ色のない花。それはまるで、風に色を飛ばされてしまい、一人だけポツンと取り残されているようだった。

だから、だろうか。ふと脳裏へと、一人の少女の姿が思い出されたのは。
同じ白銀の髪をし、記憶と言う色をなくした少女。愛おしい程に無垢で愚かなビスクドール。
その花は、彼女に良く似ていた。だからこそ、無意識に手が伸びていき、何の躊躇いもなく、一輪の花を握り締めていた。



 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ