Darling Yume

□某月某日
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どエライもんを見てしまった。


とりあえず速攻走って、やっと翔は自分の楽屋のドアノブに手を掛けた。



「大変だ!!」

「どうしたんだ、翔。そんなに慌てて」

「何〜、またあの子にフラれたとか?」

「そんなのいつものことじゃんねぇ、翔。」



Waveの楽屋では、一磨・亮太・京介の3人がトランプをしていた。



「ちょ、大富豪とかあとでいいから!聞いて!」

「あー!なにするんだよ!せっかく僕が大富豪だったのにぃ」

「で、何?どうした?」



大貧民だった一磨はホッとして、翔に何があったか聞いてやる。



「今さっき廊下歩いてたら!なんかケンカしてたから!楽屋見てみたら宇治抹茶が!」

「翔ってばノゾキしたの〜?やだー」

「まぁそうなるよねぇ」

「勝手に覗いたらダメだろ…。で、宇治抹茶さんがどうした?ケンカって言ったけど」



翔によってあちこちにバラバラになったトランプを集める京介と一磨。

亮太は半分残っていたプリンを食べながら、話も半分で聞いている。



「ケンカって言っても痴話喧嘩でさ!んで抱き合ってチューとかしちゃってたんだって!」

「…はぁ?」

「んな訳ないっしょ。義人、要らないならそのプリンちょうだい」

「………」

「わ、義人いたんだ!」



いちいちリアクションや身振り手振りが激しい翔に、義人は一つ頷いてまた雑誌をパラパラと読み始めた。



「あれじゃない?ほら、コントの練習してたとかでしょ」



まとめたトランプをトントンと整える京介の言葉に、翔は首を大きく振った。



「いーや!アレはコントとかじゃないって!ガチだってガチ!」



俺以外の女と2人で一緒にいるなんて、慎之介耐えられない!

しゃーないじゃないか、仕事なんだし。

もう!仕事仕事って!約束したやん!

ヤキモチ妬くなよ。

だって俺は隆やんじゃなきゃアカンねん!

俺もそうや。

じゃあキスしてや。

わかった、目瞑れよ。

チュウ〜。



「って感じだったんだよ!」



翔は、左に立ったり右に立ったり、ハグするマネをしたり、唇を尖らせたり。

一人二役で演技して、さっき見聞きした事を話した。

下手なエセ関西弁もどきで。



「…ぷっ」

「あっははははは!」

「くくくっ」

「………」



一連の翔の演技を黙って見ていた4人。

一通り終わった翔を見て、一気に笑い出した。

義人も声を殺して俯きながら肩で笑っている。



「な、なんだよー!」

「って言うか、『俺以外の女』って何!」

「ひー!お腹痛い!」

「翔、いくらなんでも信憑性ないぞ」



ホントなんだってー!と騒ぎながら、そういえば上着も着たままで鞄も背負ったままだったと気付いた翔は、それらを脱ぎ捨てながら一番近くの椅子にドカっと腰を沈めた。



「はいはい、わかったよ翔くん?」

「あーあ、笑った笑った」



小馬鹿にする京介と、まだお腹を抱えている亮太。

2人をギっと睨むと、そこにあった食べかけのプリンをかき込んだ。



「あー!僕のプリン!」

「うるせー!信用しない罰だ!」

「…そもそもそのプリン俺のだけど」



笑われたのは自分の一連の再現もどきだという事に気が付いていない翔だった。



「すみませんWaveさんそろそろスタンバイお願いしまーす」

「あ、はーい」

「ほら翔。ちゃっちゃとメイクして来いよ」

「俺ら先に行ってるから」



スタッフの声をきっかけにその話は一旦中断され、各々軽く身支度を整えて楽屋を出た。



今日の仕事は、毎週金曜23時から放送している、Waveが司会とするトーク番組の収録。

Waveが司会と言いつつも、進行はリーダーである一磨で、他4人は賑やかし担当だ。

4人が賑やかしと言いつつも…と色々と後に続くのだが。







毎回ゲストを迎え質問に答えてもらったり出されたトークテーマで話しが広がったりと、深夜に眺めるには丁度いい緩さをウリにしているスタンスで、割と人気がある番組だった。



「本番行きま〜す!4、3、2…」



遅れていた翔の準備も万端、スタンバイオーケー。

とりあえず何事もなく本番を迎えた。



「って事で今日のゲストは…。翔は誰だと思う?」

「えー誰だろ〜。毎回教えてもらえないからドッキドキなんだよね!」

「京介はゲストが男だったらいつもすぐ目の輝きがなくなるもんね」

「いえいえそんな滅相も」

「そんな死んだ目で否定しても!」

「………」

「義人もそんな軽蔑の目で見ない!」



ゲストは毎回その時まで明かされない。

ゲストが登場したときのWaveの反応等がこの番組の見所でもあるからだ。



「では早速お迎えしましょう!今日のゲストはこの方です!」



5人は中央のスペースを少し空け、左右に広がる。

そして後ろに構えているゲスト登場用の大袈裟なドアに向かってそれぞれ拍手をした。



「どーも〜!」

「こんばんはー」

「(えっ)」

「今夜のゲストは宇治抹茶のお二人です!」



ゲストは、今専ら話題(Waveの…と言うより翔の中での)な2人だった。



「宇治抹茶ですー。よろしくお願いします」

「いやぁ、今大人気でピッチピチのWaveちゃんらに拍手で迎えられるの、なんや嬉しいわ〜」

「おい、ピッチピチて。俺らも充分ピチピチやっちゅーねん」

「あはは。と言うかWaveちゃんって何なんですかー」

「WaveちゃんはWaveちゃんや!」



よろしくお願いします、と言い合い、ゲストである宇治抹茶を含めた7人は彼らを真ん中にソファへと移動した。

ゲストの両脇にはいつも一磨と翔が挟んで座るのが基本体勢。

そして今日もやはり京介の目の輝きは失われていた。



「ごめんなぁ中西くん。俺らが可愛い女の子やなくって」

「ホントですよ、一条さん」

「そらまぁ俺らみたいなオッサンよりも女の子がゲストな方がええよな」

「あれ、松田さんさっき自分たちもピッチピチて言ってませんでした?」

「そうやったっけ」

「お、鋭いツッコミやな、三池くん。そうやねん、隆やんってすぐ自分の言うた事忘れるから困るわぁ。約束もよう破るしぃ」

「……」



語尾の辺りでチラっと松田を見る慎之介。

松田の隣に座っている翔は、その慎之介の目線がよく見えた。

慎之介の含みのある言い方と言い、さっき見た楽屋での事件(翔の中では事件扱い)がフラッシュバックした。



「そうなんですか?松田さんからそういうイメージ沸かないんですけど」

「慎之介さんならありそうなんですけどねぇ」

「なんで俺やったらありそうやねん〜!めっちゃ真面目人間やって!」

「確かに。アレですよ、一条さんのプレイボーイっぷりがそう連想させるんですって」

「…京介だけには言われたくないと思う」

「義人。何か言った?」

「せやんなせやんな藤崎クン!」

「一条さんまで…」

「藤崎クンは俺の事真面目って思ってくれてるよなぁ!」

「……」

「ぅおおおい!」

「ははっ、まぁ世間での俺らのイメージはそうなんやって」

「ムキー!その勝ち誇った顔がムカつく!肩ポンポンすな!」

「まぁまぁ。俺は慎之介さんも真面目な人だと思ってますよ」

「本多くーーん!」

「わぁぁ!」

「こら慎。ほっぺスリスリやめぇ。しかもアイドルに」

「ごっめーん、ついつい。あ、本多くんファンの方、苦情のお便りはやめてや〜。ちなみに本多くんのほっぺはスベスベで気持ちよかったです〜ぅ」



と、和やかにトークが始まった。


質問に答えてもらうコーナーや、宇治抹茶2人のお気に入りを写真で紹介するコーナーがあり。

それらも難なくやり過ごし、撮影は順調であった。



「では一旦休憩入りまーす!」



そう言うスタッフの声をきっかけに、場の空気がふっと落ち着く。

本番では入れていた肩の力も、自然と抜けて行った。



「それはそうと、何や今日は桐谷くんめっちゃ大人しない?」

「え、えーっと、そんな事ないですよ!」



休憩に入ってすぐ、まだ皆が動き出す前。

松田の影から身を少し乗り出し、翔の方へ顔を覗き込ませる慎之介。

不意の振りに、翔は焦ってしまう。

慎之介の左手がいちいち松田の首に回ってるところも、またいちいち気になってしまう。

今まで宇治抹茶と共演した時でも廊下で会った時でも。

慎之介のスキンシップは見慣れてるハズだ。

見慣れているハズなのに妙に意識してしまう。



「そうなん?何や元気ないように見えたから。桐谷くんはいつもみたいに元気いっぱいの方が似合ってるで」



笑顔でそう言われ、右の頬を指で突つかれる。

元気がないわけではないが、確かにいつもより大人しいのは事実。

それを気にかけてくれた事に、翔はありがとうございますと返した。



「…んじゃ、俺は今の内に一服して来るわ」

「あ、じゃあ俺も休憩一緒に行くわ〜」



慌ただしく動き回るスタッフの間を通って、スタジオから出て行く宇治抹茶。

そしてその場に散り散りに残るWaveの5人。



「あービックリしたー!」

「翔さ、意識しすぎだって」

「だって、まさかゲストがあの2人なんて驚いちゃって」



呆れて溜め息を吐く京介に、心臓の辺りを抑えて背もたれに体重を掛ける翔。

そんな翔の頭に、一磨はポンっと進行スケジュールが書かれた小さめのボードで小突いた。



「だとしても仕事はちゃんとしろよ」

「はぁい」

「…こっちがヒヤヒヤする」

「ごめん義人」



翔は、さすがに皆の言う通りだなと反省した。

もう何も気にしないで目の前の仕事に集中しよう。



「ま、何にせよ。後半は取り返そ」

「うん、ありがと。って亮太どこ行くの?」

「トイレだよトイレ」



振り返る事なくそう言うと、連れションはやめてよと付け足してそのまま亮太はスタジオを後にした。








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