02/02の日記

22:07
虜・ココマ
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(※ピアニストココ×調律師小松)



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「─よし、これで問題ねーし」

「いつも悪いなサニー」

「別に、前のためじゃねーから。俺はこのミューズに会いに来てるだけだし。ああ、なんて美しいんだ俺のベーゼンドルファー…!」


広いリビングに置かれたグランドピアノの突上棒を外し、大屋根を閉めたサニーは、彼がミューズと呼ぶピアノの艶やかな外装に手を当て、うっとりと呟く。
このピアノは、ココが下積み時代の最後に異国を離れる際、師匠から譲り受けた一級品。今日に至るまで苦楽を共にしてきた、言わば相棒である。
この型番はメーカーでは既に廃番となっており、マニアの間では幻のピアノとして高値で取り引きされる程、価値の高いものであるようだと知ったのは、この男、サニーに出会い調律を依頼するようになってからだった。

サニーが惚れ込むのもわかる。この相棒は、こちらの気分によって自在に音色を変えてくるのだ。まるで、会話をしているように、ココの言葉に耳を傾け、そして思い通りの音を奏でる。
中でも円やかな音を出すのに特別秀でていて、ノクターンなど落ち着いた曲調のものを得意とするココにとっては、最高のパートナーといえた。


「はいはい。じゃあ早速弾いてみようか」

サニーのことはさておいて、ココは椅子に座るとペダルの調子を確かめる。うん、今日は調子がいい。
息をひとつ吐くと、ココはモノトーンの鍵盤を静かに叩き始めた。


「──うん、悪くないな。有り難うサニー」

今日も相棒の為に尽くしてくれた調律師を労おうと、ちょっとお茶でも入れようか、そう言おうとしたときだった。


「失礼ですが…音が、少し乱れているような気がするんですけど、どう思いますか?」


少し高めの声がココの耳に届く。声のした方を向くと、サニーの横にいた小柄な青年が、難しい顔をしてピアノを見つめていた。
ああ、そうだった。サニーが新人の調律師を今日連れてきているんだったと、ココは思い出した。彼はそっとこちらに近寄ると、壁に凭れるサニーに言葉をかける。

「サニーさん、もう一度ワイヤーとピンの様子を見てみたいんですけど…ダメですか?」

「エー!またやり直せってこと!?神経質なココが納得してんなら大丈夫だろぉ!?大体な、こいつはなかなか気難しい性質のやつなんだしー。これ以上は…」

「サニー。もう少し調整してくれないか」

間髪入れずにココが告げると、サニーは渋々了承して、片付けた工具をケースから引っ張り出す。超過料金は上乗せする、というココの言葉がなかったら、次の依頼は断られていたかもしれない。


「ねえ、君、名前は?」

怒濤の勢いで整調を始めたサニーに対し、手持ち無沙汰になったココは、傍で仕事の様子を見ている青年に声をかける。

「あ、小松と言います。余計なこと言ってしまってすみません、」

「いいんだ。君は何か楽器をやっていたの?」

「いえ。僕自身は特には。ただ、親しくしている従兄弟がピアニストなんです。それで、昔からピアノが好きで。」

ふうん…と、ココは腕を組むと、サニーの様子を真剣な眼差しで見つめる小松のことを眺めてみる。

このピアノの演奏を初めて聴いて、即座に微妙な音の狂いを聴き留めるとは、大した聴覚の持ち主だ。
癖のあるこの相棒の音色の中でも、サニーでさえ気付かなかったレベルのものを聴き分ける。それは彼に備わった、天才的な才能なのではないか。


「サニー」

「んだし!いっそがしいんだから話しかけんじゃねーし!」

「次から、ここへ来るときは小松くんも必ず連れてきてくれ」


それは、ほんの僅かな好奇心。この小松という青年に秘められた力を、もっと感じてみたいという思いが、ココの心を踊らせていた。

笑みを浮かべながらサニーに告げれば、横にいた小松は直ぐに目を輝かせて、ありがとうございます、と笑った。



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ピアニストココさん×調律師小松くんというおいしいネタにたぎったので、勝手に創作…
小松くんの体で愛の旋律奏でる系ココマ書きたかったんだが、ただの馴れ初めだね〜〜ガクリ。
尚ベーゼンドルファーや調律うんぬんに関しては知識曖昧なかんじですすいません…

ちなみに小松くんの従兄弟のピアニストは、天才的音感を持つゼブラさんがいいと思います。小松くんの音感は幼い頃から鍛え上げられていたに違いない…!という個人的希望。

ネタ元のもといさまに捧げます。萌えをありがとうございました!

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