短編

□願いは叶う?
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「雨だねぇ。星も何も見えない。」

小さな窓から空を見上げ、臨也はそんなことを呟いた。帝人はそれをちらりと横目にしながらパソコンに向かう手を止めない。

「ねえ、帝人くん、聞いてる?」

「…ああ。独り言じゃなかったんですか。」

今度は不満そうな声をあげたので、やっとこさ手を止めて帝人は面倒くさそうに臨也を見た。
予想していた通り彼は不貞腐れた顔をしている。

「何ですか。」

「今日が何の日かキミは知ってる?」

「七夕ですね。」

「そう。」

帝人の答えににこやかに臨也は頷いた。今日は7月7日、空を見上げれば天の川が見え、自分達は短冊に願い事を書いて笹に飾る日だ。
けれど、今日は生憎の雨で、空には雲が広がっている。まあこの都会では晴れていたって天の川はみえなさそうだが。
帝人はそんなことを考えながら、臨也にそれがどうかしたかと聞いた。それに対して臨也はうんと頷く。

「帝人君は短冊に願い事を書くとしたら何て書く?」

「短冊ですか。」

決まっている、そんなの。

「臨也さんが二度とこの家に来ませんように、です。」

臨也の質問に即座にそう告げると、一瞬きょとんとした顔をして、声を上げて笑った。

「残念だ帝人君。その願いは絶対に叶わない。」

「…。」


それを聞いて帝人は盛大な溜め息を吐いた。
つまりはここに毎日のように来ることをやめるつもりはないということですか。
そう考えた帝人の頭を読んだかのように臨也はにこにことしていて、少しイラついたため近くにあった座布団を投げつつ(彼は軽々と避けていたが)、帝人は立ち上がり台所へと足を向けた。

「帝人君、俺にも。」

「はいはい。」

冷蔵庫を開けて、中から緑茶を取出してそれをのむ。ついでに彼の分の飲み物もちゃんととってやった自分はなんと優しいことか。

そう自分を褒め称えつつふと部屋の方に目線を戻すと、彼はまだ空を見上げていた。

「臨也さんは、短冊に何を書くんですか?」

ほんの少し頭のなかに掠めた疑問をそのまま口に出し、窓際の臨也のもとへ帝人は戻る。手に持っていた緑茶を臨也の手へと渡すと、素直に受け取って彼は帝人の方を向いた。


「君が俺を好きになりますように。」

「…。」


静かに、こちらを見つめて言ったそれは、本当に心から願っていることのように見え、帝人は気まずそうに目を逸らす。
先程の彼のように、残念だそんな願いは一生叶わないとそう言えたらよかったのだが、悲しいことに自分にはそんな自信はなく。
もしかしたら彼の言った願い事は今後いつか叶ってしまうかもしれないから。もしくは、もう既に叶っているのかも。
なんて。
勝手にそんな事を考えた頭にいやいやそんなことはないと否定を重ねて、帝人は逸らした目線を元に戻した。

「バカじゃないですか?」

「ひっどいなぁ。」

ひどいのは彼の方だ。毎日のようにこの家に来て、不意を突くように自分のことを好きだと宣って、人の心をじわじわと侵食していくように愛を囁いて。
でも、一歩線を引いているようにも見える。彼のことだから怖いということはないだろうが、だとしたら自分が行くのを待っているのか。
なんて自信だ。自分が絶対にそちらへ行くとは限らないのに。

まあ、でも、多分自分は彼の所へ行くのだろうけど。

「いつか、」

「ん?」

「いつか叶うんでしょうね。臨也さんの願いは。」


小さな声で独り言のようにそう言った帝人に、数秒間を置いて臨也はそうなると良いなとめずらしく弱々しく微笑んだ。


―――――

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