短編 2
□約束なんてしなかったけれど
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「約束はしない、でも」の続き設定
ひらりひらりと、落ちていく桜を見ると、いつかの話を思い出す。
「あ、帝人君見てみなよ、桜が満開だ。」
「あ、本当ですね。」
町中を歩きながら、たまたま通り掛けた公園を見ると、道沿いに植わっている桜が満開で、臨也と帝人、二人でその桜の木の下で足を止めた。
「綺麗ですねぇ。」
桜を見上げ、感慨深く呟いた少年を横目で見ると、いつかの春の日を思い出す。
その時は平日の夜、静かな公園の一角で、帝人と二人でこうして桜を見上げていた。
また桜見られるといいね。
なんてことを言った自分に対して的外れな返答を返してきた少年が思い出されて臨也は小さく笑う。それをタイミング良く見ていた帝人は不思議そうに臨也を見上げた。
「臨也さん、何笑ってるんですか?」
「いいや?何でもないさ。」
あの時の帝人は本当に、純粋に何の深読みもせずに臨也の言葉に答えたのだろう。まあ、自分も曖昧な言葉で言ったのだし、曖昧でしか言えない程、自分の気持ちも定まっていなかったのだからしょうがないといえるのだが。
(今は、どうだろうね。)
臨也は隣で桜に見入っている少年を見つめながら考える。今の彼との関係はあの時とはまるで違う。夢が現実になってしまったような今この状況で自分は彼にストレートな言葉を言えるだろうか。
「…ねえ帝人くん。」
「はい、何でしょうか?」
桜から目を離し、こちらを真っ直ぐ見てきた少年の、頭に乗っている桜の花びらを取ってやる。帝人はその臨也の手を追って、乗ってましたかと恥ずかしそうに微笑んだ。その姿を可愛いなと思うと自然とこちらも頬が緩む。
「来年も桜、見れると良いね。」
君と二人で見れると良いね。
―なんてやっぱり言えず、ごまかすように帝人の頭を撫でた。
臨也のその行動にされるがままになりながら、きょとんと臨也を見上げていた帝人は、ふとぽつりと呟く。
「来年も桜は咲きますよ。」
「え?」
「なんて、」
ふふ、と笑った帝人は、近くにあった桜の木に近づいて、その幹をそっと触った。
「臨也さん、知ってますか?」
臨也もならって桜の幹にちかづくと、そう問い掛けてくる帝人。何を知っているのかと、そう聞き返すと帝人はまた笑って上を見上げた。
「何だかんだいって毎年毎年、僕達二人で桜を見てるんですよ。」
「え、あ。」
帝人のその言葉に臨也は考えを巡らした。
最初の年は偶然で。
次の年は偶然を装って。
その次の年はちゃんと誘って。
今年は誘わなくても二人でこうして桜を見上げている。
「本当だ、約束なんてしてないのにね。」
「約束ですか?あの時もそんな話してましたね。」
視線を彷徨わせて、んー、と考えて、結局内容までは思い出せなかったらしい。何でしたっけと見上げた上目遣いに、キスしてやりたい衝動を抑えつつ、俺も覚えてないよと返事をした。
「帝人くん。」
「はい、何でしょうか?」
「来年も桜、見れると良いね。…二人で。」
そっぽを向いて呟いた小さな言葉に、少年は、嬉しそうに頷いた。
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