巡り出会い
□…再会.少年の出会い
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そんなまさか
子供はただただ踞って泣いている。臨也はその子供に確かに見覚えがあった。この間彼の小さい頃の写真を見せてもらったことがある。
顔は見えないがその黒い髪の短さだとか、そんな所しか似ているところはないけれど、何となくだけれどその写真の彼と同一人物のような気がした。
(でも、そんなまさか)
臨也はゆっくりと近づいて子供の前に立った。少しばかり息を呑んで、なるべく優しい声音で、どうしたの?と話し掛ける。
子供はその声にびくりと反応して、静かに顔を上げた。
「…―。」
長い間泣いていたのだろう。少し赤くなった大きなその目を見て臨也は確信した。
「竜ヶ峰、帝人君?」
大きな目をさらに見開いて子供は臨也を真っすぐに見た。まるで何で知っているかと聞くようなその目に臨也は苦笑し、腰を下ろして子供と目線を合わせた。
「その目、全然変わってないね。」
「―おじさん、だあれ?」
「おじ…」
最近の子供の見る目ってどうなってるんだろうか。5歳児から見たらそうなのかもしれないけれど。
まだ、二十代前半なんだけどな、なんて少し落胆しながら臨也は目の前できょとんとしている子供に手を差し伸べた。
「立てる?取り敢えず此処を出ようよ、帝人君。」
―――――――
「…うわぁ!!」
もう暗い夜でも池袋の町はまだまだ明るい。
まだ小さい彼はこのような街並みは見たことが無いのだろう。小さな帝人は臨也の隣で大きな歓声を上げた。きょろきょろと物珍しそうに周りを見回している様子を見て臨也は小さく微笑む。今の彼もこの町にきてすぐはこうだったのだろうななんて思いながら、とあるアイス屋の前で足を止めた。
「帝人君、アイス食べない?」
「あいす!」
臨也の言葉に帝人は目を輝かせた。が、直ぐに暗い表情になる。何かと思って見つめてみれば、彼は小さく、おかねもってないです、と呟いた。
「俺が出すから大丈夫だよ」
「で、でも!」
ああそうか、小さい頃から彼は真面目らしい。
臨也はこの間の帝人とのファミレスでのやりとりを思い出して、小さく俯いている頭を撫でた。
「こういう時は黙って奢られるもんだよ。」
今の彼にこうすれば怒って頬を膨らませるだろうが、小さい頃の彼はただただ俯いて感謝の言葉を言った。
ここは昔の方が素直だ。
臨也は、帝人の要望からイチゴアイスを買い、その後は、近くの公園のベンチに座ってアイスを食べることにした。
さて、時間が出来た。
隣に座ってアイスを頬張っている帝人を横目に見ながら臨也は今の状況を整理しようと考えた。
今自分の横にいるのは確実に5歳の竜ヶ峰帝人だ。最初に見た時点でそれは自分の中で確信していた。それに彼の容姿は写真そっくりだし、仕草だとかも今と面影がある。念のためここに来るまでにも色々質問したが、住んでいるところだとか誕生日だとか、まるっきり一緒だったからこれは確定だろう。
ではなぜ、5歳児の帝人なんてものが此処にいるのかだが、どういうわけか知らないが、過去からこちらにやってきた、ということなのだろう。とてつもなく信じがたいけれど、そうであるならばすべてが納得がいくのだから。
つまりは彼が10年前に体験した出来事というのはたぶん今現在のことなのだ。
――つまりは、10年前彼が出会った人物というのは、自分だったのである。
なんだよ。
なんだよそれ。
分からなくて当たり前だ。
臨也はそこまで考えて渇いた笑いを溢した。
(帝人君、君は思った以上にすごい体験をしていたみたいだ。)
―そして自分は。
臨也はジャケットの内ポケットからメモ帳を取り出した。
(思えばこれもそうだったのかもしれない。)
下の方にちょっとした黒猫のイラストが入った真新しいメモ帳。それをぺらぺらと捲りながら、今度は声を上げて笑う。
その声に隣で肩をはねらせてこちらを見上げた帝人を逆に見下ろして臨也は目を細めた。
分かってしまった。
10年前のあの男がなぜあんなことをしたのか。
「―帝人君。良いことを教えてあげよう。」
臨也そう言ってニヤリと笑った。きょとんとこちらを見ている少年と目線を合わせる。
そして先ほどのメモ用紙にペンを走らせて、
指からひとつのシルバーリングを抜いて、
一緒に帝人の手のひらにのせて、こう言った。
「この紙に書かれた日付と場所で俺と君はまた会えるよ。指輪はその時に返してね。」
だったか。彼から聞いた10年前の男の言葉はこんなだったはず。
メモ用紙に書いた文章はもちろん今年の西暦と自分と彼が出会った日付、そしてこの土地の名前だ。
よく分かっていない帝人は、手に持たされたものと臨也を交互に見ている。
臨也は落とさないようにと、少年の手のひらに乗せたものを握らせて、その上から自分の両手で包みこむように強く握った。
「絶対忘れないでね、帝人君。」
そう呟いて、臨也は願うように目を瞑る。
すると直ぐにぎっていた手の温もりが無くなり、目蓋を開くと、目の前から子供の姿は消えていた。
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