巡り出会い

□…迷走.その先には―
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「どう?何か思い出した?」



夕飯も食べ終わり、しばらく二人でまったりしながら他愛ない話をしていると、臨也が言葉を区切ってそう言った。


その言葉に帝人はどきりとして、今朝の正臣との会話を思い浮べる。
自分で思い出したわけではないが、新たに入った昔の記憶。
元々臨也はこのために帝人のところに来ているのだから、自分は言うべきだ。言うべきなのに、


「あ、いえ、特に何も…」

咄嗟に吐いた嘘の言葉に帝人は自分で顔を顰めた。いつも通りにすいませんと謝ってしまった。
本当に何をしているんだと思いながらでも言わなければもう少しこの関係を続けられると考えた。
ごめんなさい、と今度は別の意味で口に出して臨也の方を見ると、真顔の彼と目が合った。
あれ、いつもならここで臨也の気にしてない風に馬鹿にした様な言葉が返ってくるはずなのに。
今回は少し違う。臨也は黙って帝人を少し見つめ、口を開いた。

「ねぇ、帝人君はまだあの男のこと探したいと思ってる?」

「―…。」

息を飲んだ。
今の言葉はどういう意味だろうか。

「ただの確認だよ。」

何も言えずにいると臨也はそう付け加えた。

「確認、ですか…」

帝人は臨也から目を逸らしてその言葉に対する答えを考える。
正直言ってしまうと、探したいという気持ちは少しずつ薄れてきているのは自分で気付いていた。それは今朝の話で夢かもしれないという可能性が高くなった時も感じたことで、自分は割とその事にショックを受けていなかったのだ。
それよりも帝人は今の臨也との関係が無くなることが恐かった。帝人が10年前を追い掛けることをやめることで臨也が離れていくのが恐かった。
正臣はあんなことを言っていたが、それでも帝人は臨也ともっと話したかった。一緒に食事をしたりしたかった。帝人は臨也といることが割と楽しみになっていたのだ。だから目の前にいる彼には申し訳ないけれど。
今はこう答えるしかない。

「探し、たいです。」


だからまだ臨也さんも此処に来てくれますよね。帝人は心の中でそう思いながら、臨也を見た。だが、彼はその言葉に何も言わず顔を顰めて立ち上がった。

「え、帰るんですか?」


コートを羽織ってドアに向かう臨也を見て帝人も慌てて立ち上がったが、彼はこちらを見ずに、またね、と一言だけ言って家を出ていってしまった。
なぜだろう。なんだか怒らせてしまったみたいだ。
帝人は言い様の無い不安にかられながらドアの前に立ち竦んでいた。








――――――

なんなんだ俺は。

臨也は帝人の家を出た後、池袋の町をイラつきながら歩いていた。

自分自身の感情が、発する言葉が理解できないなんて。

帝人が帰ってくる姿を素直に喜ぶ自分がいた。
夕飯が割と凝った料理で思わずときめいた自分がいた。
美味しいと言った後の彼の喜んだ顔が可愛いと思う自分がいた。

最後に、10年前のことをまだ追い掛ける彼に酷く苛つく自分がいた。

帝人が、もう探さないで良いと答えていたら自分はどうするつもりだったのか。その先の自分の行動が(自分のことなのに)予想できず、それにも苛ついた。

(ああもう!)

考えても考えても分からない。ただ今はこの苛立ちを解消したほうが良さそうだ。

臨也はいつもの通り誰かで遊んでやろうと思い、近くの路地裏に入った。
―その時、通りの向こうで小さな呻き声が聞こえた。

(いや、呻き声というより)

泣き声だった。

小さく、啜り泣いているような声。


臨也は訝しく思いゆっくりとした足取りでその声のする方に歩いた。歩いて、泣き声の主を見つけた瞬間目を見開いた。

臨也の目線の先、暗い路地の脇で


小学生にも満たなそうな子供が踞って泣いていた。



――――

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