巡り出会い

□…食事.帝人宅にて
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今の自分の行動が自分でも理解できない。

この頃ずっとそう思っていた。



竜ヶ峰帝人は見たとおり平凡な人間である。それは実際に会ってから今まで変わっていない。ただ、少しだけ変わったことに興味があり、それに対する行動力は凄まじいものがあるというのは最近分かったことではある。それは10年前のことを今だに追っていることもあるが、この間、臨也が天敵である平和島静雄と戦っている時に、キラキラした目で帝人がそれを見ていたためである。(その後会った時に平和島静雄についてしつこく聞かれたときは若干イラついた。)
とにかくも、竜ヶ峰帝人という人間はそんなこと以外は別段変わったこともないのだ。なのに臨也は帝人に興味を引かれている。
臨也が最初帝人に会いに行った理由は、初対面の帝人の自分を見た目が気になったため。二度目に会いに行った理由は10年前のことを帝人から詳しく聞くため。三度目以降は只単に話をしたかったため。彼の話し方や仕草が臨也の好みだったからだ。
10年前のことも気になってはいるが、確実に帝人に会う目的がそれでは無くなってきていることが臨也は理解できない。
そもそも根本がおかしいのだ。
なぜ最初に帝人に興味を持ったのか、それが今だに分からない。そしてなぜ、今早く彼に会いたいと思うのか。なぜ夕飯に誘われただけで嬉しく思うのか。

ほんっとうに理解できない!

臨也はそう心の中で叫びながら、今まで下を向いていた顔を上げた。
目線の先には築何十年かも分からないボロアパート。
まだ彼が帰ってくるには時間があるのはわかっている。なのにもうすでに此処にいて、帰ってくる彼を見てやろうと思っている自分が本当によく分からない。








―――――――――――
学校の帰りに夕飯の買い物をしてから家路に着いた帝人は、遠くから見える自宅アパートのドアの前に黒い物体がいたことに驚いた。

「え、うそ…」

こちらに気付いたのか、手をひらひらと振ってお帰りと言っている。
その姿に若干心が騒つきながらも帝人はぱたぱたと小走りにドアに向かった。

「すいません!まさかこんなに早く来るとは思ってなかったので…」

「君が謝る必要はないよ、今日はこの近くで用があってね、早めに終わったからそのまま来ちゃっただけだから。」

「そうなんですか?」

にこやかにそう言った臨也の言葉に帝人は若干安心して、家の鍵をがちゃりと開けた。

「家に何もなかったので買い物してたんです。」

「何もない、て帝人君またろくでもない生活送ってたわけじゃないよね。」

「違いますよ。偶々昨日切らしちゃっただけです。」

臨也を家に招き入れ、買い物袋の中身をがさがさと取出しながら帝人はそう言うと、臨也は、ふーんと曖昧な返事をしながら取り出された食材を眺めた。
あの顔は絶対信じてないな。

「…今日の夕飯はハンバーグとか?」

「正解です。」

よく分かりましたね、と言おうとして臨也の方を向くと、意外だといわんばかりの目と視線がぶつかった。

「何ですかその目は。」

「…いやぁ、意外と凝ったものだから臨也さんびっくり。うどんとか蕎麦とかそっち系を覚悟してたからさ。」

一体この人は自分をなんだと思っているのか。

「料理は実家でも手伝ったりしてたので人並みには出来るつもりです。」

失敬だと思われる臨也の言葉に帝人はふてくされがちな声を出すと、臨也は、そうじゃなくて、と呟いた。

「大丈夫なわけ?」

「はい?」

何がだろうと、帝人は思ったがその意味はすぐに分かった。今彼がしているしかめっ面の顔は何度か見たことがある。

「こっちに来て大分落ち着きましたし、金銭的にも余裕出来たので大丈夫ですよ。」

臨也が偶に奢ってくれていた分、食費もだいぶ浮いていた。この件に関しては本当に彼には感謝しなければいけないなと帝人は改めて思う。というよりも彼は割と心配性だと苦笑すると、臨也に何笑ってんのと小突かれた。

「いえ…ていうか、臨也さん。向こうで待っててくださいよ。」

「俺も手伝うけど。」

まるで心配だとでもいうようなその言葉に帝人は駄目です!と反して臨也を台所から押しやる。

「それじゃあお礼にならないじゃないですか!大丈夫ですから大人しく待っててください!」

「…ハンバーグ焦がさないようにね。」

うわもうホントこの人は!

「…っ、大丈夫っつってんでしょーが!そっちいってろ!」










――――――

テーブルに向かい合わせに座り、先程作ったハンバーグを咀嚼している臨也を帝人は恐る恐る、といった感じに見つめていた。対する臨也はもぐもぐと口を動かすだけで何も言わない。
こういうときって普通何かしらいうもんじゃないだろうか。
沈黙に耐えかねて帝人が何か話そうとした時に、やっと臨也が口を開いた。

「…驚いた。」

何に驚いたんだ何に。
美味いか不味いかを聞きたいのだが、相手はその後何も言う気が無いらしく次のハンバーグを頬張っている。
まあ食べてるのだから不味くはないのだろう。帝人はそう思い、自分の食事に手を付けようとしたその時に向かい側から、おいしい、とぼそりと言われて思わず顔が緩んだ。


(ああ、良かった。)



彼にそう言われたのが、こんなにも嬉しいなんて。



―――――――

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