巡り出会い
□…進展.
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「帝人さ、あの折原臨也と仲が良いってホントか?」
学校に着いて早々に幼馴染みにタックルを食らい、仕返しにでこピンしてやろうと手を上げた瞬間に帝人はそんなことを聞かれた。
「…仲良いっていうか、最近ちょくちょく会うかも。」
「なぁーにぃー!?」
「うあ…正臣うるさい…」
傍で馬鹿でかい声を出され帝人は耳を塞ぎながら顔を顰めた。
なぜそんなに驚くのかと一瞬思ったが、ああそうかとすぐに納得する。池袋に来て正臣と再会した日に、関わってはいけない人物について色々言われたのだ。その中には勿論折原臨也のことも含まれていた。帝人もその後ネットで調べると、臨也は確かに池袋で有名であり、都会って恐いなぁと感じたものだが、一般人の自分が関わることなどまあないだろうとその時は思っていた。
だが、現在は関わるどころか一緒に食事までするようになってしまっているのだから本当に世の中って分からないものである。
と、考えたところで、隣で心配そうな顔をして寒いことを言っていた幼馴染みに臨也と関わった経緯を帝人は話すことにした。
「―というわけなんだけど」
「なるほどなぁ。突っ込みたいことは色々あるが、お前あの時のことまだ気にしてたんだな。」
「ああうん、まあ、」
正臣は帝人の10年前の出来事を知っている、というよりもあの時の前後に彼と一緒にいたのだから、当然帝人はその直後に話しているのだ。その時正臣にどんな話をしたのかはまるで覚えていないのだが。
「そういえばさ、正臣は10年前のこととか覚えてたりする?」
この前の臨也との食事で言われた言葉が引っ掛かっていたのか、帝人は何の気なしにそんなことを聞いた。彼はあんなことを言っていたが普通そんなには覚えてないはずだ。
「10年前なぁー、あ、さっきの帝人が迷子になった時の事なら割と覚えてるな。」
「え!?なんで!?」
当事者の自分でさえ殆んど覚えてないのに!
予想外の言葉に帝人は驚いてそう聞き返すと、正臣になんでってなんだよ!と背中を叩かれた。
「だってあの時の帝人はなんか変だったんだぜー、後ろについてきてると思ったらいきなり姿眩ますし、戻ってきたら、あんな山奥でアイス貰ったって言い出すし。」
「アイス…?」
そのくだり、全く覚えていない。やっぱり自分は記憶力がないのだろうかと落ち込んだが、新たに手に入れた10年前の記憶に少しの喜びが生まれた。
「僕他に何か言って無かった?」
「他に?そうだなー、真夏なのに暑そうなコート着てたっつーくらいか?」
真夏、そうだ真夏だった。
いくら田舎の山奥だとしても暑いものは暑い。季節に似付かわしくない格好をしていたから覚えていたのかとそこで帝人は納得した。
というより、今の話でまた色々と矛盾点が生じてきて、あれはやはり夢だったのだろうかという気持ちが帝人の中で高まった。
「正臣ありがとう。何となくだけど思い出した気がする。」
「そうか?まあ、俺も何か思い出したら報告すっから。何度も言うけど、折原臨也には気を付けろよ、悪い噂しか聞かねーから。」
「分かった分かった。」
ホントに分かってんのかお前ー!、と言いながらうりうりとおでこを突つこうとする正臣の手をはたきながら帝人は別のことを考えていた。
今日は臨也が家に夕飯を食べにくることになっている。最近ちょくちょく御飯を奢ってもらっている礼として帝人が誘ったのだ。
もし今分かったことをその時に臨也に告げれば、彼も自分と同じようにやはり夢だったのではと思うだろう。
そうしたら、彼はどうするだろうか。10年前に帝人に会った人物などいなかったんだと結論づけて、探すのをやめてしまうのではないだろうか。
―そうしたら、もう自分のところにも来なくなるだろう。
それはなんだか悲しいと思った。その気持ちがどういう意味合いを持つものなのかは帝人はまだ分からなかった。
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