巡り出会い

□…協力
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「―キミはそれを信じたわけ…?」


帝人の話を聞いて、臨也は半ば呆れていた。だって普通冗談だとか思うだろう、普通。

「しょうがないじゃないですか。その時僕は5歳だったんですよ。純粋でまだ人を疑いもしなかった様な頃ですよ。」

いや、だからって

「その時はそうだとしても、今現在まで信じきってきた帝人君もどうかと思うんだけど」

「僕だって信じきってたわけじゃないです。会えたらすごいなぁ、なんて思ってたくらいで。」

ただ今までずっと頭の中で引っ掛かってしまっていたのは、まるで絶対に忘れてはいけないかのようにあの人物が残していったものがあったからだ。

「僕が折原さんに声をかけてしまったのは、あなたの服装が似ていたからっていうのもありますけど、」

帝人は鞄の中から、昨日から入れっぱなしだった紙と指輪を取り出して、テーブルにそれらを並べた。

「折原さんも指輪してますよね。」

「…それが、さっき言ってた人間が置いていったってやつ?」


少し色褪せているメモ用紙に、鈍く光るシルバーリング。臨也はそれを交互に見つめて、そして自分の指輪に視線を移した。

似てるっちゃ似てるが、臨也の指輪はどこにでも売ってるようなありふれたものだ。テーブルに置いてある指輪も同じように特別変わった物ではないように思える。

「…君が山で拾ってきたんじゃないの?」

「ないとは言えませんね。僕の記憶はもしかしたら全部夢で、それと混同させてるだけかもしれないです。」

何せ帝人はその時5歳で、あの人の顔だって覚えてはいないのだ。帝人だってそう考えたことはあったし、今でもその疑いは消えない。

「でも、何ていうのかな、僕はずっと忘れられなかったんです。」

まるで呪いのよう、と言ったら聞こえが悪いけれど、本当にその時のことだけは帝人はずっと頭に焼き付いていた。他の楽しかった思い出が薄れていく中でそれだけは色褪せることなく、帝人の中に留まったのだ。


「それが、なんか面白いなぁ、と思って…」


ついここまできちゃいました、と苦笑する帝人に臨也は何とも言えない表情をするしかなかった。

「まあ、でも結局昨日は会えませんでしたし、ただの夢だったのか、からかわれただけかもしれないですね。」

そう言葉を吐き出すように言って、帝人はお茶に口を付けた。
臨也はそんな帝人を見て、考える風に視線を天井に向ける。
もし、帝人の記憶が現実のものだとして、一体その男は5歳の少年に何をしたかったのか。本当にからかっただけなのか。10年後にしかも日付と場所まで指定して?(ただ適当に書いただけかもしれないが)

そして、自分だ。

偶然が重なることなんていくらでもあるとは思うが、たまたま似ている服を着て、指輪まで似たようなものを付けている臨也が、たまたま昨日池袋を歩いていて、帝人に声を掛けられた。
何か気持ち悪いぐらいの偶然である。
そしてあのメモ用紙。
色褪せてはいるが、メモ用紙の右下にはちょっとした黒猫のキャラクターが描かれていた。
―臨也も今現在、コートのポケットの中に同じ種類のメモ帳が入っているのだ。
一応言っておくが、臨也の趣味ではない。貰い物だ。

偶然とは言えないようなレベルの偶然。これは他人事では無いような気がしてしまうのはしょうがないと思う。

「…ねえ、帝人君。」

「はい。」

短い返事が聞こえて、臨也は視界を天井から帝人に移した。

「誰なのか知りたくない?」

「はい?」

「君が10年前に会った人間。」

帝人の目が見開かれて、戸惑ったような声が漏れる。

「え…と、知りたいといえばしりたいですけど…」

「じゃあ調べて見ようか。」

「え!!出来るんですか!?」

「分かんないけど、でも気になったからには調べるのが俺でね。」

取り敢えず何者なのかぐらいは知りたい。じゃないとなんか気持ち悪い。
臨也はにやりと笑いながらまだ戸惑っている帝人を見据えた。

「君が協力してくれないことには何も出来ないからね、どう?」

臨也の言葉に帝人は正直戸惑ったが、でも、出来ることなら知りたい、そしてもう一度会いたかった。ならば断る理由もない。

帝人は頷いて、宜しくお願いします、と頭を下げだ。



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