巡り出会い

□…観察
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「本当にすいませんでした…」

表情を暗くして帝人は台所で飲み物を用意していた。対する臨也は畳みの上でおでこを押さえている。

なぜかと言うと、

帝人が驚いた勢いで開けたドアに臨也は避けきれず、まるでお笑いのコントの様におでこをぶつけたのである。
咄嗟のことだったのだと臨也は心の中で言い訳をした。まさかこの少年に攻撃をくらうとか思わないじゃないか。

ごつんとある意味良い音がした後に、帝人は青ざめて臨也に何度も謝っていた。
ぶつけた部分をのぞくと見事に赤くなっており、それを見て帝人はさらに青ざめて、手当てをするために臨也を家に招き入れ、直ぐ様氷嚢を用意したのだ。

どうやら彼は律儀で真面目な少年らしい、とおでこを冷やしながら臨也は帝人を分析して、それから部屋を見渡した。

引っ越ししてすぐだからなのか、それとも元々部屋に物を置かないタイプなのか、帝人の部屋には小さな机の上に置いてあるパソコンと、壁に掛けてある真新しい制服しか見当たらなかった。

「そういえば、帝人君は来良学園に入るんだってね」

「…そんなことも知ってるんですか?」

帝人はお茶の入ったコップを2つ持って、臨也とテーブルを挟んで向かい側に座った。帝人が臨也の事を知っていることに臨也は別に驚かない。この地で有名人なことは自分で自覚している。

「まあね。…じゃあ、帝人君は俺の後輩になるわけだ。」

「後輩って…折原さんは来良の生徒だったんですか?」

「正確に言うと名前が変わる前の来神高校だけどね。」

もう7年前になるかなぁ、と臨也がしみじみした風に呟くと、帝人は少し考えながら、そうなんですか、と曖昧に返事をした。
その表情を見て臨也はにやりと笑った。今彼が考えていることは分かる。それはずばり、

「俺の年齢でも考えてた?」

「…ぅえっ!」

驚いた表情と声で図星だとすぐ分かる。臨也は帝人の性格に、顔に出やすい、というカテゴリを加えた。
帝人はというと、自分の考えを当てられたことに戸惑って目を泳がせていた。

「お、折原さんは、一体何の用で、ここに…」

「うん、君の昨日の言動がどうも気になってね」

正確に言うと、言動が気になったというわけではないのだが、臨也だってよく分からない感情で此処にいるのだ。あの時の俺を見る君の目が気になりました、なんて言うよりもこっちの方が遥かに変に思われずに済む。
何も言えずにいる帝人に臨也は言葉を続けた。


「君は昨日、俺を誰かと間違えて話し掛けたんだよね。俺の顔を見ても人違いに気付かなかったってことは、君はその誰かさんの顔は知らないか覚えていないわけだ。じゃあ、何を判断基準にして俺を捕まえたのかなぁ、と思って。
あと年齢も聞いたよね。それは、俺の顔をよく見たら、君が考えていた人物より若いと思ったか年を取っていると思ったかってことだ。顔も覚えていないのに年齢は分かるってこと?
俺と間違えた人間っていうのは君の知り合い?それにしては何ていうか、曖昧だよね。10年前っていうと君は5歳だから記憶が曖昧とかそういうこと?」


取り敢えず、帝人の昨日の言葉から考えていた事柄を臨也はぶちまけると、帝人は目を真ん丸くして臨也を見つめていた。

「な、何?」

「あ、すいません…今日折原さんが来た時、ちょっと期待しちゃったんですけど、そんなことを聞いてくるって事はやっぱりあの人ではないんですよね。」


少し物悲しそうな顔をして帝人は笑った。
その表情を見た臨也は一瞬ドキリとした。この少年をこんな顔にさせる人間はだれなのかと。

「君は、一体誰を探してるの。」

そう聞いた臨也に、帝人は少し躊躇いながらも、幼い頃の体験を話すことにした。


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