巡り出会い

□番外編
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午前10時。

だいぶ前に遊びで買った度の入っていない眼鏡に、深い帽子を被って、よしっと気合いを入れる。
支度は完璧。
先程届いたメールをもう一度確認してから、帝人は自宅の玄関を開けた。








――――――

臨也からおかしな提案をされたのは、ほんの数日前、丁度高校の卒業式が終わった時だった。

「ゲームをしない?」

そう言われて首を傾けた帝人に臨也はにっこりと笑顔を見せて勝手にルールを説明しだしたのだ。

「簡単な追いかけっこだよ。舞台はこの池袋。制限時間は朝から夕方まで、詳しい時間は後で決めるとしよう。それで、電車やバスは利用禁止で、帝人君は自分の足で逃げて、俺も自分の足で追い掛けるの。」

そこまで言って、臨也は、どう?面白そうでしょ?と首を傾けてきた。

どう?とか聞かれましても、確かに面白そうではありますが。
そんなゲームをやるだけのメリットが見つけられない。
帝人は素直にそう口にすると、臨也は待ってましたといわんばかりの顔をして、実に分かりやすいメリットを提案した。

「君が制限時間内に俺から逃げ切れれば、俺は君の言うことを何でも聞こう。」

ぱちくりと目を瞬かせた帝人に、逆もまたしかり、と臨也は言い足した。
つまり臨也が勝ったら帝人は臨也の言うことなんでも聞くということ。


ここまできて帝人は臨也のやりたいことを理解した。
成る程そういうことか。
まあ、面白そうかそうでないかといえば、断然面白そうだ。自分は臨也にどれだけ逃げ切ることが出来るのか、ちょっとばかり試してみたい気もした。

「いいですよ。やりましょう。」

帝人がそう臨也に返したのが、数日前。
今日はその数日後、つまりゲームの開始日だった。










―――――――

(とはいったものの、)

逃げるといってもどこに行けば良いのだろう。

臨也からメールが来たのは約一時間前で、つまりはこのゲームが始まってからそのくらいが経ったということになる。帝人は自宅からがスタートで、臨也は池袋駅からがスタートだったはずだ。

取り敢えず駅付近には近づかないようにして、なるべく人の多い道を通っては来た。普段通らないような道も通ったりしてみたり。
割と考えて早く見つからないようにしてきたつもりだけれど、それでも臨也には早く捕まってしまうだろうと予想していたのだが。今のところ臨也の姿は見ていない。

(割とこの変装が良かったのだろうか。)

以前友人(ぶっちゃけ正臣だが)と遊んだときに使ったものを今帝人は身につけている。前の時はバツゲーム以外のなにものでもなかったけれど、今このようなところで役立つとは思わなかったと、帝人は帽子を深く被り直して再び人通りの多い道を歩きだした。
あまり通らない場所なので少しキョロキョロとしながら歩いていると、ふと視界の端に見たことのあるような物が見えた。

(あ、これって…)

とある小さな小物店のショーウインドウ越しに見えたのは可愛らしい人形達とずらりと並ぶメモ帳やノート類。帝人が目を止めたのは、その中の一つのメモ帳だった。

右下に小さく黒猫が描かれているメモ帳。それは確かに帝人が小さい時に臨也から貰ったメモ用紙と同じ種類の物だ。

(うっわあうわあ!すごい偶然!)

ガラスの向こうにあるそれに、帝人は心の中で感嘆の声を上げる。最近発売されたものなのだろう、そのメモ帳の隣に小さく新商品と書かれていた。
本当に、偶々通った道でこんなものを見つけられるなんて。
帝人はもう一度すごい!と心の中で叫んで、半ば衝動的にその店に入った。
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