拍手文--
□我慢する必要はもう無いのだ
1ページ/1ページ
仕事の途中でちらりと視界に入ったソファーを臨也は盗み見る。
お気に入りのクッションを枕にして、そこに横たわって熟睡している黒髪の少年を見ていると、つい一二ヵ月ほど前のことを思い出す。臨也は静かに少年の元に歩いて、ソファーの前の床に腰を下ろした。
―あの時もこの少年は同じようにソファーで寝ていて、臨也はそれを近くで見つめていた。
(なんて無防備)
そう思った。だって自分と彼の関係は他人ではなく友達とも言えずまして恋人同士でもない、そんな関係だったのに。
だいぶ前に彼が、この家は居心地が良いとぼそりと呟いたのを嬉しく思ったのは自分が彼を好きだったからで、そんな彼は自分のこの感情に気付いていない、つまりは片想いだった。
そんな彼に片想いをしている自分の家で、彼は寝顔をさらけ出している。
馬鹿なんだろうか、彼は。
臨也はそう考えながら少年の顔をまじまじと見つめた。サラサラとした短い黒髪に色白の肌、閉じられた睫毛はとても綺麗で。無防備にも過ぎるその唇を見て、
(キスしてやろうか)
なんて思ってしまうのはしょうがないと思う。
出来なかったけれど。
気配に気付いたのか、少年が少し身動いで、臨也は咄嗟に少年から顔を放した。目蓋が少し開いて、少年と目が合う。ぱちぱちと瞬きを繰り返した後、あれぇ、と声をだした。
「いざゃさん。」
少年の舌ったらずな声に理性を飛ばさなかったその時の自分を褒めてほしい。
あの時の自分の精一杯の我慢を思い出して臨也は苦笑した。一二ヵ月たった今、また同じ様な状況がやってくるとは思っていなかったが、今の自分と彼の関係は少し違っていて、見事に自分の片想いは終わっているのだ。
臨也は帝人の寝顔をまじまじと見つめて、無防備にもほどがあるその唇に口付けた。
帝人が少し身動いで、臨也は目を細めて、唸っている帝人の顔を見つめた。目蓋が少し開いて、帝人と目が合う。ぱちぱちと瞬きを繰り返して、あれぇ、と声をだした。
「いざゃさん?」
「おはよう帝人君。」
臨也の顔を見て、ふにゃりと笑った帝人に再びキスをする。
「―…っん、…!」
目を見開いて一瞬固まった帝人を見て臨也は顔を緩ませた。
「…ぃきなりなにを…!」
「だってさ、もう我慢する必要ないし。」
「何のはなし…っ」
ああなんて素敵なことだろう。
無防備な少年を前にして理性を飛ばすのを我慢する必要もないなんて。
臨也は、つい2ヶ月程前の自分にざまぁみろと呟いて、起き上がろうとした少年を押し倒してもう一度、今度はがぶりつくようなキスをした。
―――
眠っている帝人君を前に悶々としてる臨也さんを書こうとして撃沈しました。