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□眠れない夜に
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深夜3時
帝人は唸りながら布団の中で何度も寝返りをうっていた。
(…寝れない)
なぜだろう。横になったときは確かに眠気があったはずなのに、目を閉じて暫く経っても意識が遠くなる事はなく、逆に冴えてきた気さえする。
あー、と声を上げながら今度はうつ伏せに寝てみる。寝方を変えたのはこれで何度目だろうか。布団に入ったのは1時頃だと思うので、かれこれ2時間近くは布団の中をごろごろしている。
明日も学校なのに
月に2、3回はこういう事があるが、理由はよく分かっていない。でも大抵は1時間くらいすれば眠気くらいは襲ってくるものだが、今日は全く襲ってきてはくれなかった。
帝人はため息をついて枕に顔を埋める。真っ暗闇の中で、明日の授業は寝不足確定だなぁああもう今日か、なんて考えながらこれからどうしようかと頭を巡らしていると
布団のすぐ脇に置いてあった携帯がけたたましく鳴りだした。
こんな時間に誰だ。
今までの静寂を打ち破るように鳴りだしたそれを少し睨み付け、怠そうに手を伸ばして掴んだ。
ディスプレイを眩しそうに視界に収めると、そこには新宿に住む情報屋の名前が表示されていて、思わず顔を顰めた。
「…もしもし」
「…あれ?割と出るの早かったね。もしかして起きてた?だめだよー明日も学校なのにこんな時間まで起きてたら」
夜中だというのにリズム良く弾んで耳に入ってくる声に帝人はさらに顔を顰めた。
そう思うならこんな時間にかけてくんな。そう思ったが、ここは我慢した。しかたがない、早く要件を聞いて電話を切りたかった。
「…何の用ですか?」
「うん、眠れなくてね。帝人君と話でもしようと思って。」
「…つまり嫌がらせですか。」
そう帝人が聞くと、そうとも言うかな、と明るい声で返事が返ってきた。
何だそれ。
とはいえ、帝人も今まで眠れなかった身だ。臨也の話はいつも長ったらしいから、もしかしたら眠気が返ってきてくれるかもしれない。そう考えて、帝人は臨也の話を聞く態勢をとった。
「で、何の話をするんですか?」
「うん、恋をした男の話。」
「はい?」
受話器の向こうの青年からは聞きなれないというか聞くとは思っていなかった言葉が聞こえて帝人はつい聞き返した。だが、臨也はこちらの声など気にしていない風に言葉を続ける。
「その男は今まで一人の人間に恋なんてしたことがなかった。というよりもそんなことあるはずがないとずっと思ってきたんだ。
でも、現れたんだ。一目で心奪われたとかまでは言わないけれど、会うたびに、話すたびに心が揺れるのを確かに感じてしまったんだ。
信じられないくらい、実際最初は信じられなかったけれど何度も否定してきたけど、でも、駄目だった。認めざるを得ないくらいもう愛してしまっていたんだ。こんなにも制御が利かないものだということを初めて知ったんだよ、その男は。
―帝人君ちゃんと聞いてる?
「あ、はい、聞いてますよ。」
正直言うと少しうとうとしていた帝人である。さすが臨也さん、眠気が一気に戻ってきました。
そんな帝人の様子に臨也は気付いているのかいないのか、少し息を吐いて、また口を開いた。
「…それで男は考えた。これからどうしようかと。
まあ、相手と両思いになるのが一番のベストであるから、それに向けて色んなアプローチを仕掛けたわけだけれど、何と相手は心底奥手でね。男の気持ちには一つも気付いてくれないんだよ。
まあ、男の方も直接的表現をしてこなかったからいけなかったのかもしれないけど。
だから、男はもうやめた。まどろっこしいアプローチもめんどくさいし、届かないしね。もうはっきりと言うことにしたんだ。」
そこで臨也の言葉が途切れ、うとうとしながらも聞いていた帝人は、あれ、と首を傾げた。訝しげに臨也の名前を呼ぶと、受話器からまたもや息を吐く音が聞こえた。
「臨也さん?」
「―というわけで帝人君」
「はい?」
「好きだよ。」
ぶつっ、と通話の切れる音。
帝人は暫く携帯を耳につけたまま動かなかった。
―動けなかった。
−−−−−−−−
こうして帝人君は結局眠りにつくことはできなかったと。徹夜決定です。