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□最終的には
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「帝人君、何見たい?」
「何見たい、ていきなり連れてこられてそんなこときかれても…」
帝人は今、臨也と共に映画館の前にいる。
休日の午前9時、最近寝不足だったから今日はのんびりと過ごそうと思って布団でくつろいでいた帝人の前に臨也は現れて、無理矢理ここまで連れてきたのだ。
寝癖を直す暇もなかった、と帝人は手で跳ねている髪を押さえた。
「で、なんでいきなり映画なんですか?」
「ああ、そういえば言ってなかったっけ。映画の割引券もらったんだ。」
だから君と見ようと思って、と言ってからポケットから2枚の券を取り出して帝人に見せた。
成る程、それを先に言ってくれ。帝人は200円引きのそれを見て、映画の上映ポスターを目を移した。
ずらりと並べられている、今上映されている映画のポスターを一通り眺めてから、ある映画に目を止める。
「あ、僕これが良いです。」
「…帝人君、それはわざと?」
ひとつの映画のポスターを指差した帝人に臨也は少し眉を潜める。
「臨也さんが好きそうじゃないものを選んでみました。」
「何それ!ていうかキミも好きじゃないだろ、その手の映画!」
臨也の言う通り、この手の映画は帝人は好きじゃない。けれど、今の帝人がそれを選ぶ理由は大いにあるのだ。にこりと笑顔で臨也を見上げた帝人に見上げられた方は少し顔を引きつらせる。
「…無理矢理連れてきたの怒ってるの?」
「僕にも予定というものがあるんですよ」
「寝てたじゃないか」
「寝るという予定があったんです」
それは予定に入るのか、そう呟かれた疑問の声は聞こえなかった振りをして、帝人は黙りを決め込んだ。
すると臨也は溜息を一つ零して、帝人が先ほど指差した映画のポスターを見つめる。
「…キミは俺のために自分の嫌なものを見ようって言うの」
「ええ、臨也さんのためなら」
正確に言うと臨也さんの嫌そうな顔が見らるためなら、である。帝人は臨也ほどその映画が嫌なわけでは無いため我慢すればなんとかなるはずだ。
そんな帝人の言葉に臨也は、キミも大概だよね、と呟いてチケット売り場へと歩いて行った。
その背中を少し見つめた帝人は、ちょっと悪いことしたかな、と良心が痛んだ。
無理矢理とはいえ、臨也は帝人を誘ってくれたのだ。そして、映画の割引券もある。
寝不足気味で苛ついてさっきはあんなことを言ってしまったが、臨也の誘いが嬉しくなかったわけではない。だから
やっぱりちゃんと二人で楽しめる映画を見よう。
そう思い直し、帝人は遠ざかる臨也を追い掛けた。
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