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「帝人って馬鹿だよね!ホント大馬鹿!!」

バンッとドアを閉めながら臨也は僕にそう叫んだ。対する僕は半ば引きづられるようにずっと歩き続けたためにやっと止まれてほっと息を吐く。

「ここ臨也の家だよね。なんでー」

「今は黙ってなさい」

てっきり自分の家に向かうのかと思っていたので僕はそう聞いたのだが、鬼の形相(とでも言うべきか)でこちらを向かれれば口を閉ざすしかない。また引きづられながら臨也について行く。
連れてこられたのはたぶん寝室で、そこにあるベットにやはり強引に寝かせられた。

「帝人の家寒いし、今日はここで休みなよ」

「へ?そんな、」

大丈夫だ、言う前に臨也にギロリと睨まれた。

「良く言えるねぇそんなことが昨日ぶっ倒れた人間に。キミ昨日熱あったの覚えてる?しかも割と高い熱だったよね。普通今日は大事をとって休むべきだろ。それをさぁ、朝食も食べずに学校行ってしかもまたぶっ倒れるとか。やっぱ馬鹿だろ」

その言葉に僕はぐっと押し黙る。そんなに馬鹿馬鹿言わなくても良いじゃないかとも思ったが、今回はそう言われても仕方がないので反論はできなかった。

「…ごめん臨也」

「ほんっとにさぁ…」

帝人は俺を殺す気なの、と呟いた臨也の顔は、本当に心配そうに見えて僕は思わずにやけそうになる。こう言う時にそういう顔をするのは反則だ。臨也にばれまいと僕は口元を毛布で隠した。

「どうしたの。帝人」

「いや、なんでも。ていうかこれ、臨也のベット?」

「…そうだけど」

―ああ、だからか。

「臨也の匂いがする」

言った後で、しまった、と思った。僕絶対今変なこと言った。
ちらりと臨也の方に目を向けると、彼は顔を手で覆ってはぁー、と長く溜息を吐いていた。

「いや、あの、今のは―」

「…飲み物取ってくる」

僕が言い訳をする前に臨也はすたすたと行ってしまった。その合間に、天然って恐い、などと意味不明な言葉を呟いて。




ドアを閉める彼の背中をじっと見た後、真っ白な天井を見上げた。


目が覚めた時は保健室のベットの上で、その時初めて自分がまた倒れたことを知った。
理科室に移動しようとして廊下に出た時。そこから記憶がなかったから今度は朝っぱらから保健室行きになったということだ。ああ、やっちゃった、とそう思って腰を上げると、カーテンを開けて入ってきた臨也と目が合って、開口一番で怒鳴られた。
それからマシンガントークで文句を言われた後、昨日のように一緒に帰ろうと言われたけれど、僕は最初断って一人で帰ると言った。だって2日間も臨也を道連れになんか出来ないじゃないか。
けれど僕のその言葉で彼の機嫌は急降下した。今世紀最大ではないかと思われるしかめっ面で馬鹿!と怒鳴られて僕は何も言えなくなった。
そこからはされるがままに手を引かれて学校を出て、今に至る。




僕は体を起してぐるりと室内を見渡した。
臨也の家には何度か来たことがあるが、寝室に入ったのはたぶん初めてだ。僕の家には毎日のように泊まってるくせに、臨也はこの家に僕を泊めてくれない。理由はよく分からないけど。

それにしても、今のこの状況は些か落ち着かない。言ってしまえば、まぁ、好きな人と二人っきりなわけで、でもそれはいつものことだとも思うのだが、やはり自覚する前とした後では違うものがあった。
だからと言って別に何かあるとか考えてるわけではない。臨也は別に何とも思っていないだろうし。

そう考えて少し気分が落ち込む。

別にこのままでも良い。そう思っているはずなのに、どうしたって願ってしまうのは、彼も自分の事を好きにならないかということだった。そんなことは無理だと自分で理解しているつもりなのに、それとは相反する感情が膨らんでいくのを止められない。
本当にやっかいだ。そう思い僕は顔を顰めた。

「何考えてるの?」

「ぅえ!?」

突然掛けられた声に驚いて素っ頓狂な声をあげる。いつからだろうか、臨也はカップを二つ持ってドアの前に立っていた。

「何、て、なんで?」

「表情がコロコロ変わってたから」

うわ、そんなに顔に出ていただろうか、と顔を手で触ってみる。その間に臨也はカップを傍のテーブルに置いてベットに腰かけた。

「帝人ってさ、昔と全然変わってないよね。考え過ぎるとすぐ熱出してぶっ倒れるの」

そうだったかな、なんて自分で考えても分からない。答えかねて口を噤んだ。
臨也はそんな僕をちらりと見た後、言葉を足した。

「俺のこと?」

(ー…っ)

その言葉に、息がとまりそうになった。
俺の事を考えてたの。
そう言う意味合いの言葉だとすぐに分かる。

「、なんで」

「分かりやすい態度も変わってない」

溜息をついて、まるで自嘲したように笑った臨也は、なぜか傷ついているように見えた。
どうして臨也がそんな顔をするのか。
僕にはそれが理解できず、しかもそれ以前に彼の言葉が引っ掛った。
分かりやすい、臨也は分かりやすいと言った。つまりそれは知っている、ということだろうか。僕が臨也を好きだという事を。それでいてその傷ついたような表情をするのならそれはつまり

「あのさ、帝人」

「…待って!」

言葉の続きを聞きたくなくて僕は叫んだ。

嫌われた。そう思った。僕の好意を知ってそんな顔をするということはたぶんそうなのだろうとそう思った。
知られたらこうなるだろうってことは最初から分かってた。だから隠そうとしていたというのに。
知られてしまったらどうすればいい。
臨也に今嫌われたら僕はどうすればいい。

「…やっぱり帰る」

「は?」

これ以上は気まずくてここにはいられない。それに、今彼に突き放されるような言葉を掛けられでもしたれたぶん立ち直れない気がする。
そう思って、ベッドから出ようとした所を臨也に腕を掴まれた。

「なんでそうなんの?」

「…離して」

低い声音に怯みそうになる。それを何とか持ちこたえて震える声でそう答えた。すると臨也の顔がより険しくなる。

「俺の事、そんなに嫌いなわけ」

ーなんでそうなるんだ
呟くような臨也のその言葉に僕はカチンと来た。全部知ってるくせに。

「どうしてそんなこと言うの?からかってるの」

「からかってなんか―」

「からかってるじゃないか!僕が臨也を好きなこと知っててそういうこと言うってことは!!」

勢いにまかせて出てしまった言葉に僕自身も怯んだ。だが、もうそんなことは関係ない。僕は覚悟を決めて臨也を見据える。だが目の前には、固まっている臨也の顔。
その時初めて僕は、あれ、と首を捻った。知ってるはずなのになんでそんな驚いた表情で目を見開いて固まっているのか。

「え、あれ…?臨也…」

「ちょ、ちょ、っと待って、」

待って、と何度も言いながら僕の言葉を遮る臨也はかなり狼狽えているように見える。あれなんで臨也が狼狽えているわけ。そうしたいのはむしろ僕の方だというのに。しかも、あー、だの、えー、だのと呟いている臨也なんて初めて見た。
臨也の意外な反応で状況が掴めなくなって僕はただただ目の前の彼を見つめる。

やがて、はー、と一息吐いて臨也は口を開いた。

「帝人は、さ。多分勘違いしてる。」

…勘違い?

「僕が何を勘違いしてるっていうの…?」

「俺は、帝人が好きだよ。」








「…へ…?」


言ってる意味が脳で理解が出来なかったらしい。たっぷりと間を置いてやっとこさ声を出した。
彼は、いま、なんと、いった?


「だから、俺は帝人が好きだって言ってるの。」


え、なんで、今―

そんな言葉を掛けてくるのか。もしかしてからかっているのだろうか。その可能性は彼なら大いに有り得る。
でも、それにしては臨也の声や目付きが真剣すぎて、真実だとしか思えない雰囲気だった。


「―うそ…。」


「うそ、じゃないし…」


はー、と臨也は今日何度目かのため息を吐いて僕の腕を少し引っ張る。いきなり臨也の顔が近付いてきて思わずぎゅっと目をつぶった時には、口を塞がれていた。
反射的に離そうとしたが後頭部を手で押さえられて身動きが取れなくなる。

触れるだけのキスを

どれくらい経ったか分からないくらい長く、長く触れていた熱がゆっくりと離れていく。
ぐらぐらして一体何が起きているのか分からない。だんだんと頭で理解してきた頃には身体中が沸騰するくらい熱くなっていた。


「うわぁ…」

「うわぁ、て君ね。」

「ち、違う、そうじゃなくて」


うわぁ、どうしよう。
予想外の展開すぎてどうすればいいかわからない。
ていうかたぶん自分今顔真っ赤だ絶対。
自分の腕を掴んでいる臨也の手からもじわりと熱が伝わってきてより一層混乱するばかりである。


「い、いざ、や」

「ん?」

なんとか絞りだした僕の声に、短い返事をしてこちらを見た臨也は、なんというか、今まで見たことのないくらい優しい顔をしていて、僕はぐっと息を飲み込んだ。なんだその顔は。

「俺は帝人が好きだよ。愛してる。」

甘ったるい声でそう呟かれて、僕は抱き締められた。密着した体は熱くて、僕のなのか臨也のなのかは分からない、けれどその熱が心地よくて、離したくないと思った僕はもう末期だ。
この熱を離さないよう、僕はゆっくりと臨也の背中に手を回した。













-------
臨也も僕が好きだったらしい。
僕が自覚したのは昨日とか一昨日とかそんな最近のことだけれど、彼はもっとずっと前からだったという。長かった、と息を吐いて臨也は笑っていた。

そんな前からだというのならなぜ僕の前から離れたのか。その時はまだ全然自分の事なんか気にしてなかったということだろうか。
僕は今でもそれが分からないが、臨也に聞いても「あの時は俺も馬鹿だったよ…」の一点張りだった。

とにもかくにも一方的に僕が悩んでいた1,2週間の日々は終わりを迎えた。


「1,2週間ならまだいいじゃないか、俺なんか年単位だからね」

臨也がそう呟きながら僕をぎゅーっと抱きしめる。二人の関係が幼馴染から恋人に変わった今でも、僕を抱きまくら代わりにする寝起きのスタンスは全く変わらない。ただ僕自身も臨也を抱きまくら代わりに抱きしめ返すようにはなった。

「だから、臨也。いつから好きだったの」

「うーふーふー、内緒ー」

臨也は僕の肩辺りに顔をうずめてくすくすと笑った。
まあ、僕自身も自分が彼をいつから、なんて良く分からない。ただ今はどうしようもなく好きでしょうがない、だなんて惚気か、これは。

「あーもー、起きよ」

「ええー?もうちょっと良いじゃないですか、太郎さん」

がばりと臨也を押しのけて体を起こした僕に臨也はそう言った。

「―え?」

ふと思考回路が停止する。
彼は今、太郎さんて呼んだ?

それは僕がネット上で使っているハンドルネームであって、臨也には教えたことなどなかったはずだ。いつのまに知ったんだと最初は思ったが、でもそれ以前に今の言葉口調には覚えがあった。

自身が良く利用しているチャットのメンバーである、甘楽、さんの口調であって。

あれ、と臨也の顔を見下ろす。
彼は所謂とても良い笑顔で笑っていた。


「太郎さんってば最近チャットに顔出してくれませんねぇ。甘楽寂しい!」


「−−−−っ!」



まさかそんなだって臨也が――!






―その後少年の叫び声が部屋中に響き渡ったのは言うまでもない













−−−−−−−
これで終わりとなります!
読んでくださった方がいれば!最後までお付き合い本当に、ほんっとうに!ありがとうございました!
なんというか、まぁ、もう初めっからぐっだぐだでホント申し訳ありません。
次はもうちょっと構成を考え、スマートに行きたいと思います
日々精進します。はい。

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