拍手文--

□6
1ページ/1ページ

折原臨也が帝人のことを好きなのは、近くにいる人間なら誰でもわかることだった。

彼が帝人に向ける視線、言動、行動、どれもすべて幼馴染や友達に向ける者とは違っていたからだ。
たぶん彼自身もそれが周りに分かるようにしているのだろう。無意識なのかどうかは分からないが。

そのことに当事者である帝人はまったく気づいていない

気付かない方が良いと俺は思っている

そのほうが帝人のためだと、友達歴がまだ少ない俺でもそう思ったし、例え気付いたとしても帝人の態度からして(あいつの折原臨也に対する態度は普通に見えた)それを受け入れるとは思っていなかった

帝人のあんな言葉を聞くまでは―









最近の帝人は様子が変だ

一日中ずっと上の空って感じで、授業中も何度も後ろから溜息が聞こえた。ちらりと後ろを覗いてみれば、いつもは真剣に受けている帝人が、教師の声など聞こえてない風に窓の外を眺めていた。
そんな帝人の姿は友人として放ってはおけない
俺は耐えかねて、昼休みになってすぐに帝人に声を掛けた。


「みっかどー?お前最近どうしたの?」

「え?…どうって何が?」

「どうって…そーだなー、元気ないというか、悩んでる感じに俺は見える」

そういった時、帝人が一瞬固まって、それからぶんぶん手を振った

「いや、そんなんじゃなくて、ただ考え事をしていたというか」

「おうし!お前の悩み事をこの紀田正臣様が当ててやろう」

「紀田君、話聞いてる?」

帝人はすぐ顔に出るから嘘をついてることはすぐわかる。少しの付き合いでもそれはよく分かった。
高校生の悩みの定番と言えばあれだ。それにヤマを張ってみよう。

「―ずばり、恋の悩みって奴だな!」

俺は、ビシっと帝人に指を指して宣言した。どうだ、当たってるか?
と目の前の友人を見ると、彼は、目を見開いて、まじまじと俺を見た

「…紀田君には、そう見えるの?」

この反応じゃ当たってるのかよくわからない

「いや、見えるっつーか、なんとなくというか…」

曖昧に答えると、帝人は、そう…、と呟いて溜息をついた

「恋、とは違うと思うんだけど…自分でもよく分かってないんだ、と思う」

「お前…恋愛経験とかは?」

「全くないけど」

なるほど。それに加え折原臨也の気持ちにも気付いてないところを見ると、帝人はそういう類のことにはかなり疎いと見た。


「誰か気になってるやつはいるってことだよな」

「気になってる、というか、」

帝人は少し視線を漂わせる。

「言いたくなかったら答えなくてもいいかんな」

別に無理やり聞きだしたいわけじゃない。ただ友人の悩みを少しでも緩和できればと思っただけだ。
そういう意味合いを含めた俺の言葉に帝人は気付いたようで、ありがとうと一言言って、ゆっくりと話し始めた。

「何といえばいいか僕も、よくわかんないんだ。ずーっともやもやしてイライラしてるっていうか。この間だって、付き合ってる子がいたって知った時にはすっごい苦しかったのに、でも今はいないって言われたら泣きそうなくらい安心して…」

帝人は俯いて言葉を続ける

「今まで一緒にいてこんなことなかったのに、今は話するだけでも色々考えちゃうっていうか…」

「…」

うん、なんていうか、なんでお前は自分で気付かないんだ。鈍いという限度の話じゃない気がするこれは
なんだか俺が泣きたくなってきた

「帝人…」

「…どうしたの。そんな憐れんだ目をして」

帝人の肩に手を置いて俺は結論を口にした

「お前それは、明らか恋だろ」

「…え?」

ぽかんと口を開けて呆けた帝人を見ながら言葉を続ける

「それは、恋だ。誰が見ても恋だよ帝人。お前はその子が好きなんだよ」

「え、ちょっと紀田く…」

「…なんだよお前ー!そんな子がいたのかよー!誰誰?この学校の生徒か?」

テンションのあまり帝人の背中ををバシバシと叩く俺に、帝人は顔を顰めて、待ってと言った

「どうした帝人、」

「ちょっ、ちょっと待って、紀田君…」

頭を抱えて唸り始める帝人に俺は首を傾げた

「なんだ?あ、もしや俺の知ってる子だったり?」

「知ってるも何も…」

帝人は、眉をハの字にして、そして頬を少し赤らめながら

「それ、臨也なんだよ」

そう言った





―頭に雷が落ちる感覚って、きっとこういう感じなんだと、俺はその時初めて知った

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ