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僕の幼馴染である折原臨也は、性格に物凄く難はあっても、顔が良いし頭もいい。運動神経だって、あの平和島静雄と闘り合ってもまだ生きてるくらいだからかなり良い方だ。最近はそうでもないけど、昔は表向きだけ人当たりが良かったし、女子にも結構モテていて、告白だってされていた。
でもその時は、女子に興味がなかったのか、僕が知る限り誰とも付き合っていなかったし、遊んだりもしなかった。
さっき新羅さんから話を聞いた時、僕は少なからずショックを受けていた。
(どうして)
最初に言った通り、臨也は女子にすごくモテる。彼女が居たってなんらおかしくない彼に今まで全くいなかったって方がおかしいのだ。僕だってそれは昔から思っていたことではないか。
ならばなぜ、こんなにも大ダメージを受けているのか
自分でもよくわからない感情に顔を顰める。
(リア充爆発しろとかそういうことだろうか)
―違う
なんというかそういう、怒りに似た感情ではない気がする。言いようのない焦燥感、もやもやした感情、そういうものが入り混じった感覚。これを何というのかを今の僕は知らなかった。
(なんか、疲れた)
わけのわからない事を考えるのも疲れたし、体力がないくせに全速力で学校から走って帰ってきたことで足も疲れた。
体を起こしているのも億劫になって、朝から引きっ放しだった布団にぼふんとダイブした。
++++++++
どれくらい寝ていただろうか。
目を覚ますと空は日も落ちて真っ暗だった。
(ああ…夕飯…)
作らないとと思い、ゆっくりと体を起こそうとした時、自分にちゃんと掛け布団が掛けられていることに気が付いた。
(あれ…僕、ちゃんと掛けて寝たっけ…?)
「今日はずいぶんと早いお休みだねぇ」
「…!?」
後ろから声を掛けられて、僕が咄嗟に後ろを振り向くと、そこには冷蔵庫から勝手にペットボトルを取り出して飲んでいる幼馴染がいた。
「臨也!」
「いやー、まさか置いてかれるとは思わなかったなぁ。シズちゃんからやっとこさ逃げ出して来たら帝人いないし。しかも帰ってきたら布団も掛けずに制服のままで寝てるし。皺になるよ」
「…」
臨也の呆れた様な声に僕が何も言えず黙っていると、彼はこっちに歩いて「飲む?」と聞いて僕の方にペットボトルを向けてきた。
「…いらない。しかもそれ僕のだし」
「俺を置いて帰った罰だよ」
「何それ…」
何十分も待たせるそっちが悪いんじゃないかと言いたくなったが、今は話すのもめんどくさいので僕は口を噤む。
その様子がおかしいと思ったのか、臨也は僕の顔を覗き込んできた
「帝人。そんなに疲れてるの?今日は体育なかったよね」
僕が疲れる理由ってそれだけか。まあ、確かに体育がある日は疲れるし、早めに寝てしまうけれど。
でも今回はそれが原因じゃない。
僕が疲れて、こんなにも悩んでいるのは、今目の前にいる彼が原因だ。
ああいやだ、と顔を顰めて彼を睨む
臨也に全く非はないのだが、今臨也の顔を見るとどうしようもなくイライラというかもやもやしてしまう。
そうすると臨也は何か勘違いしたのか、「今日は俺が夕飯作ろうかなー」とか言いながら台所の方に向かった。
その後ろ姿を見て、ふと、僕は考える。
中学のころは彼女がいたと新羅さんは言っていた。しかもいっぱいとか、あいつどんだけモテるんだとか思ったが今は置いておいて、
ならば今は?
今はそういった関係の人はいるのだろうか。
本当にふと思い浮かんだものだから、息を吐き出すのと同時にその疑問を彼に向かって口にしてしまった
「臨也って彼女居るの?」
「……!!!」
ドサっと床に落ちたペットボトル
ふたを閉める前だったのかペットボトルの中身が床に広がっていく
「…あああ、床が…」
「…何、いきなり」
こちらを振り返った臨也は、珍しくうろたえている様に見えてそれが、それが僕を一層不安にさせる
「いるの?」
もう一度聞くと、臨也は何とも言えない表情をして、それから何かを考えているような素振りを見せた
「臨也?」
「いたら、どうする?」
「…え、」
「俺に彼女いたら、帝人はどうする?」
―どうするって、どうもしないよ
その言葉が出てこなかった。
もし彼に彼女がいたとして、それを聞いて僕がどうこうしようっていうことじゃあない。別にどうもしないはずなのに。そうなんだー、て聞き流すだけで済む話のはずなのに、それなのに今の僕はそれができない、気がした。
「…」
何も言えずに俯いていると、臨也の溜息をつく声が聞こえた。
ゆっくりと顔を上げると、彼はさっき床に溢したジュースを拭いていた。
「いざ、「いないよ」
へ、と僕が声を出すと、床に目を向けたまま臨也は、彼女なんていない、とそういった。
―その言葉を聞いて泣きそうになった僕は本当に何なんだろうか。
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